心理学

ヒトは苦労して手に入れたものに価値を感じる?コントラフリーローディング効果を利用したデザイン

最終更新日:2024.02.09
ヒトは苦労して手に入れたものに価値を感じる?コントラフリーローディング効果を利用したデザイン

私たちは「面倒くさいこと」が嫌いだ。 できることならなるべく早く、簡単に、苦労せず、欲しいものを手に入れたいと願っている。

しかし、実際私たちの脳内はこれと全く逆なのです。

今回は、そんな矛盾した脳の認知バイアスであるコントラフリーローディング効果(CFL) を上手く利用しているデザイン事例をご紹介します。

この記事を書いたデザイナー
Miyuki Horino

フリーランスのデザイナー/フォトグラファー。 グラフィックデザイナーとして6年勤務、ロゴ・パッケージ・書籍など幅広く携わり、自身で写真も撮り始める。 旅好きで各国を訪れながら興味関心であるデザインや社会問題を調査しています。

コントラフリーローディング効果とは?

まず、コントラフリーローディング効果(CFL) について解説しましょう。

ある実験で、レバーを押すと食事がでてくる仕組みを学習させたマウスの前に、皿に入った餌とレバーを押すと出てくる仕組みを設けた餌の両方を同時に与えました。

すると、どちらも同じ餌にもかかわらず、マウスはレバーを押すと出る餌を選ぶのです。

何の努力もせずに手に入れる報酬よりも、苦労して手に入れる報酬の方を選択するこの結果は、イヌやサルなど多くの動物、また就学前の幼児に対して行っても同様の結果が得られました。

コントラフリーローディング効果の実験

このように、脳は簡単に手に入れたものよりも、何らかの対価や苦労を払って入手したものを好みます。これがコントラフリーローディング効果(CFL) です。

コントラ(contra)は「逆」、そしてフリーローディング (freeloading) は「たかる」を意味するので「逆たかり行動」とも言います。

コントラフリーローディング効果を利用した例

コントラフリーローディング効果(CFL) を利用している代表的事例が、北欧スウェーデン発祥の世界最大の家具メーカー「IKEA(イケア)」です。

コントラフリーローディング効果を利用した例: IKEA

「IKEA(イケア)」の家具は、基本的に自分で倉庫から運び出し、説明書を読み、自分で組み立てまで行います。出来上がった家具は、自分が労力をかけた結果得られたものとして特別な愛着が生まれ、本体の価値よりも高く評価します。「お客さんに手間をかけさせる」という一見ネガティブな側面は、実は「IKEA(イケア)」を成功させた一番の要因だったのです。

また、無印良品の「手作りキット」や「自分で作るシリーズ」もコントラフリーローディング効果(CFL) によって成功しました。

無印良品のオンラインショップ

https://www.freepik.com/free-psd/phone-screen-mockup-psd-with-hand-holding-aesthetic-beige-widgets_16262815.htm

無印良品のオンラインショップ 手作りキット一覧

https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/section/S3000902

家で過ごすことが多くなった昨今のコロナ渦の中で、あえて手間をかけるというこの商品は大ヒットしました。キットの中にはある程度材料が揃っており、少しの手間をかければ誰でも簡単に作れるものになっています。実際に作って体験してみました。

無印良品 手作りカレーキット ココナツのカレー
無印良品 手作りカレーキット ココナツのカレー
無印良品 手作りカレーキット ココナツのカレー

普段馴染みない料理に挑戦するという楽しさ、調味料やスパイス、食材の組み合わせという新たな発見、自分が手間かけて作ったからこそより美味しく感じ、誰かと一緒に作るのも楽しいだろうなと、工程の中で様々な楽しみが見つかりました。

合理性だけで考えると、食事はただ食べれればいい、栄養さえ取れればいいはずですが、あえて手間をかけることで生まれる体験と脳の快感を、私たちは価値として感じているのです。

家からは遠いのに、わざわざ足を伸ばしてまで訪れたお店での買い物に満足感を覚えるのも、苦労して登った山からの景色に感動するのも、難しい試験を突破して入社した会社にやりがいを感じるのも、コントラフリーローディング効果(CFL) です。

まとめ

ユーザーが何かしらの対価や労力を払って得た報酬に対して満足感や喜びを感じた結果、ユーザーエンゲージメントやブランドロイヤリティの向上につながり、よりサービスや商品に対して愛着が生まれます。コントラフリーローディング効果(CFL) を知っておくことで、商品開発やWebサイトやアプリのUX(顧客体験)などさまざまな場面で効果的に利用できるはずです。

そして何より、世の中に小さな楽しさや喜びを生み出すことができるのかもしれません。

参考文献:

byMiyuki Horino

フリーランスのデザイナー/フォトグラファー。 グラフィックデザイナーとして6年勤務、ロゴ・パッケージ・書籍など幅広く携わり、自身で写真も撮り始める。 旅好きで各国を訪れながら興味関心であるデザインや社会問題を調査しています。

https://miyuki-horino.com
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