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コーポレートアイデンティティとは?企業の存在意義を伝えるブランド表現

最終更新日:2024.02.09編集部
コーポレートアイデンティティとは?企業の存在意義を伝えるブランド表現

コーポレートアイデンティティ(CI)とは?

コーポレートアイデンティティとは?

コーポレートアイデンティティとは、「何のためにその企業は存在しているのか?」の問いに対する答えを、消費者や従業員に伝わる形で体系的にまとめた企業の行動指針です。単に利益を追求するだけではなく、社会的にどのような価値を生み出そうとしているのかという観点は、顧客のみならず従業員の間にも「共感」を生み出し、企業という組織が目指す方向に向けて進むための力となります。今や多様な企業な似たような製品を生み出している中、この「共感」に基づいた消費行動や、企業活動が持続可能な企業を作るための鍵となっています。

コーポレートアイデンティティは、MI・BI・VIから成り立つ

CI(コーポレートアイデンティティ)の構成

コーポレートアイデンティティと聞くと、企業のロゴやコーポレートカラーを連想する方も多いと思います。確かに、ロゴなどの視覚的な情報は「消費者」の立場として、一番触れる機会の多いものです。それゆえ、消費者が企業ロゴをコーポレートアイデンティティとして認知することは自然な流れです。

しかし、これからコーポレートアイデンティティを構築しようとしている「企業」の立場で見てみると、ロゴはコーポレートアイデンティティを形作る一要素に過ぎません。企業はロゴのみならず、企業の理念に沿ったイメージやメッセージを常に発信しています。例えば、IKEAのロゴを見たときに単に企業名だけを連想するでしょうか?「スタイリッシュなデザイン」「機能性」「低価格」「スウェーデン」「効率性」といったキーワードを連想するのではないでしょうか?このようなキーワードはロゴ自体から連想されるものではないですよね?もしくは、たまたまその企業がそのようなイメージを与えるのでしょうか?実は、IKEAから連想されるこのようなキーワードはすべてIKEAのコーポレートアイデンティティ戦略によって計画されたものです。実際に、IKEAの企業理念は以下のとおりです。

Quote

優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるよう、できる限り手ごろな価格でご提供すること

https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/the-ikea-concept-pube700d670

このように、理念に基づいたメッセージを消費者に届けるためには単にロゴをデザインするだけではなく、企業の目指す方向性を言語化することが重要となります。この言語化を助けるのが、コーポレートアイデンティティを形作る3つの要素である「マインドアイデンティティ(MI)」「ビヘイビアアイデンティティ(BI)」そして、「ビジュアルアイデンティティ(VI)」です。

マインドアイデンティティ(MI)とは?

マインドアイデンティティとは?

マインドアイデンティティとは、企業の存在価値を言語化したものです。企業とは、単に利益を上げるために存在するのではなく、社会に価値を提供することを目指しているものです。例えば、電気自動車で有名なテスラ社のブランドコンセプトは、「世界の電気自動車への移行を推進することで、21世紀最大の自動車メーカーとなる」です。マインドアイデンティティは、企業を形作る一つ一つの仕事に従業員が同じ方向を向いて取り組むための指標になります。従業員一人一人がこの企業理念に基づいてプロジェクトに取り組んだ結果、生み出す製品が「世界の電気自動車への移行を推進する」ことに繋がるのです。

この、マインドアイデンティティの基礎となるのが、「ビジョン(実現したい未来像)」です。テスラの場合は、「世界の電気自動車への移行を推進することで、21世紀最大の自動車メーカーとなる」がビジョンです。そして、このビジョンを実現するために多方向に細分化したものが、「バリュー」「ミッション」「スローガン」です。

バリュー

バリューとは、ビジョンを実現するために、その企業が持っている強みを表します。「なぜその企業が目指す未来像を作れるのか?」という問いに答えられるような独自の価値や優位性を定義します。

ミッション

ミッションとは、ビジョンを実現するためにその企業が目下何に取り組むべきかを示した言葉です。ビジョンが目指す未来像であるのに対し、ミッションは「日々取り組む課題」というような位置づけです。前述のテスラの場合、ミッションは「世界の持続可能エネルギーへの移行を加速する」です。

スローガン

ビジョン、バリュー、ミッションはどれも企業の理念や目指す方向性を示しているものの、これらはやや企業内部での共通認識としての役割が強いです。これらを、消費者に対してわかりやすく表現するのがスローガンです。このスローガンは、消費者目線であり、「共感しやすいもの」であると良いです。CMなどの広告で繰り返し印象付ける言葉もこのスローガンになることが多いです。

ビヘイビアアイデンティティ(BI)とは?

ビヘイビアアイデンティティとは?

ビヘイビアアイデンティティとは、企業理念を体現する従業員の行動指針です。企業内には、さまざまな分野を担当する従業員がいます。企画を考える人から、直接顧客と接する店舗スタッフまで企業活動に関わる全ての人が企業理念に沿った行動をすることによって、企業のビジョンは達成できるという考えにもとづき、従業員の行動指針を示すのがビヘイビアアイデンティティです。

もしかしたら企業で働いたことのある人であれば、従業員としてこのビヘイビアアイデンティティに触れたことがある人も多いかもしれません。しかし、このビヘイビアアイデンティティを「単なる行動指針」として捉えてしまうと、ただの企業内ルールのように見えてしまうかもしれません。何のためにそのような行動を取るべきなのかという大枠を理解しないままルールのように守られても意味がありませんね。ビヘイビアアイデンティティにとって重要なポイントは、ビヘイビアアイデンティティとして定義された行動指針にのみ目を取られるのでなく、それに紐づくより大きな目標となるビジョンとミッションに対して従業員が「共感」できているかどうかという点です。社内にて、ビヘイビアアイデンティティへの理解と同時に、ビジョンとミッションに対する理解も深めるように努めることが強固なコーポレートアイデンティティを築くための重要なポイントとなります。

ビジュアルアイデンティティ(VI)とは?

ビジュアルアイデンティティとは?

ビジュアルアイデンティティとは、企業の理念やアイデンティティを視覚的な情報として顧客に伝えるためのアセットやルール、ガイドラインのことです。先ほど、消費者がIKEAのロゴを見たときに、「スタイリッシュなデザイン」「機能性」「低価格」「スウェーデン」「効率性」といったIKEAのコーポレートアイデンティティを連想すると述べました。この例のように、消費者が体験したコーポレートアイデンティティを、記憶しやすい視覚的情報として紐づけさせるのがこのビジュアルアイデンティティです。

人間の五感による知覚の割合において「視覚」は約80%と、その他の「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」と比較しても圧倒的に多くの割合を占めています。人間の一番の情報源である「視覚」に対して、ロゴやコーポレートカラーなどの視覚情報を紐づけた上で、消費者にブランド価値を提供することで、消費者が再度そのロゴなど見たときに、「関連する記憶」としてそれまでのブランド体験が想起されるのです。

そのため、ビジュアルアイデンティティの方向性はできるだけ明確である方が良いです。競合他社と似た色味であったり、あまりに一般的な配色にしてしまうと消費者の記憶に残らない、もしくは他のブランドと混同してしまうといった問題が起こってしまいます。

コーポレートアイデンティティの重要性

コーポレートアイデンティティの目的は、企業の提供する体験価値を消費者に「まとまったブランド体験」として記憶してもらうことです。コーポレートアイデンティティが確立されていないまま、商品やサービスを提供しても、消費者がその体験を特定の企業に関連するものとして記憶してくれません。最悪の場合、競合他社での体験と混同して記憶してしまい、自社の価値を下げてしまうようなことも起こり得ます。

コーポレートアイデンティティとインナーブランディング

アウターブランディングとインナーブランディング

コーポレートアイデンティティのもう一つの重要な役割として「インナーブランディング」があります。今回紹介したような消費者向けのコーポレートアイデンティティの発信を「アウターブランディング(外向きのブランディング)」と呼ぶのに対し、会社内部の従業員に、コーポレートアイデンティティの理解を浸透させることを「インナーブランディング(内向きのブランディング)」と呼びます。

インナーブランディングの重要性

インナーブランディングの重要性

インナーブランディングは2つの観点から重要視されています。

一つ目は、企業内部の人間がコーポレートアイデンティティに沿った行動や発想を持つことが、消費者にも一貫したブランドアイデンティティを伝えることに繋がるという点です。視覚的な情報としてのロゴやブランドアセットはあくまでもブランドを連想させる「記憶の手がかり」に過ぎません。企業の理念に沿ったサービスを提供するためには、顧客と直接するスタッフはもちろん、企画を考える人や営業担当まで全ての従業員がコーポレートアイデンティティを理解し、共感している状態を目指す必要があります。イノベーションや感動的な体験は、チーム内の人間が皆同じ方向性を共有しているときに生まれるものです。

インナーブランディングのもう一つの重要なポイントは、従業員の満足度を高めることにあります。日本でも「終身雇用」という考えがなくなり、転職も一般的になった今では従業員に「長く働いてもらう」ことは容易ではなくなりました。従業員の立場から見ても、企業を選ぶ基準として「やりがい」は重要なポイントですね。また、「やりがい」は離職を決める時の理由にもなります。就職時に給与額が良いからと入社しても、長く働けば働くほど「やりがい」の重要性が増してくるのではないでしょうか?日々の業務はどうしても大変で、何のための業務なのかを見失ってしまいがちです。そんな中、コーポレートアイデンティティを従業員に浸透させ、この「やりがい」を生み出すのがインナーブランディングです。

求人者と求職者のマッチングプラットフォームとして有名なWantedlyは、一般的な求人サイトとは異なり、求人情報に「給与」を書くことをNGとしています。Wantedly上では、企業は自社のビジョンやミッションについての情報を記載することで、企業のコーポレートアイデンティティへ共感する求職者を惹きつけることができるという大きな特徴があります。このWantedlyが330万人以上のユーザーを抱えるサイトに成長していることを見ても、社内へのコーポレートアイデンティティの浸透がますます重要になっていることがわかりますね。この「ビジョンへの共感」が求人者と求職者をつなぐようになるという未来予測は、Wantedly社のミッションにも現れています。

Quote

世の中がモノで溢れかえり所有の希少性が薄れた現代において、仕事はお金を稼ぐためではなく、自己実現の手段になってきており、またAIやロボットに奪われない仕事とはそのような仕事といえます。

https://wantedlyinc.com/ja/company/mission

コーポレートアイデンティティの実例

Netflixのコーポレートアイデンティティ: 繋がりと未来感の表現

Netflixのサイトに掲載されているNetflixのブランドステートメントは以下の通りです。

Quote

Netflixは、世界中を楽しませたいと考えています。あらゆる好みを持つ人、あらゆる地域に住む人に、私たちは最高のTVシリーズ、ドキュメンタリー、長編映画、モバイルゲームをお届けします。一度のサブスクリプションでNetflixメンバーは自分が好きな作品を好きなときに、広告なしで視聴することができます。私たちは30ヵ国語以上に対応し、190以上の国々に動画配信しています。なぜなら、素晴らしい物語は国に関係なく創られ、愛されるからです。私たちはエンターテインメントを世界中の誰よりも愛し、視聴者が新たなお気に入り作品を見つけるお手伝いがしたいと常に望んでいます。

https://about.netflix.com/ja

ブランドステートメントからわかる通り、Netflixのビジョンは「世界最大のエンターテイメント配信企業となること」であり、そのミッションは「世界中を楽しませる」といったシンプルなものです。そんなNetflixは、ニューヨークのデザイン会社であるGretelと協力して2014年にロゴとビジュアルアイデンティティを一新しました。

ロゴ

Netflixの「N」をモチーフにしたロゴは、「繋がり」と「終わりのない物語の配信」を表現しています。

Netflix

タグライン(スローガン)

ビジュアルアイデンティティの一新に合わせて、Netflixはマインドアイデンティティの一要素であるスローガンも新たに考案しました。「See what’s next(次に何が起こる?)」という一文は、コンテンツの視聴体験を表す「See(見る)」と継続的な配信や、Netflixが未来に起こすイノベーションを表す「Next(次)」を含むことで、コンテンツ配信によって未来を作るというNetflixのアイデンティティを表現しています。

Netflixのタグライン

Stack(スタック)

「カタログとキュレーション」という二面性を持つNetflixの性質を表現するデザインとして、Netflixは重なり合うカードを使った表現(Stack)をビジュアルアイデンティティの一部に取り入れました。様々な媒体で一貫性を持った表現ができるこのStackは、Netflixのブランド広告でも、特定の番組を取り上げた宣伝広告でも同じようにNetflixのブランドアイデンティティを印象付けることができます。

Stack

参考: https://gretelny.com/netflix

Airbnbのコーポレートアイデンティティ: コーポレートアイデンティティによって競合他社との差別化を図る。

2013年、Airbnbはすでに空き部屋を旅人に貸すというシェアリングエコノミーのビジネスモデルで知名度を上げ、世界展開も始めていました。しかしながら、同じビジネスモデルの競合他社(HomeAwayなど)との差別化はうまくいっておらず、「泊まる場所を提供する」という以上のアイデンティティを確立できていませんでした。そこでAirbnbは、ロンドンのデザイン会社であるDesignStudioに依頼し、自社のコーポレートアイデンティティの構築と、競合他社との圧倒的な差別化を図りました。

DesignStudioのチームは、世界中を旅し、13都市にてAirbnbのオフィスや、宿を提供するホストなどのユーザーを訪ねることで、Airbnbコミュニティを内部から体験するというリサーチを実施しました。

スローガン

この旅を通してDesignStudioのチームが感じたことは、Airbnbの持つ価値は「場所」ではなく「人」であるということでした。このAirbnbを使った旅行体験を通して、チームが定義したスローガンは、「Belong Anywhere(どこでも居場所がある)」です。旅行体験の中で単に泊まるだけの宿泊施設ではなく、人との交流を感じ、暮らすように旅することを可能にするAirbnbの提供価値を表現する素晴らしいスローガンとなりました。

"Belong Anywhere"

ロゴ

「Belong Anywhere」を表現するロゴとして、DesignStudioのチームは「Belo」というロゴを制作しました。ロゴの形は、人、場所、愛、AというAirbnbのシンボルを表現したもので、「誰でも書けて、どこでも表現できる」という汎用性の高さが特徴となっています。

Airbnbロゴ

参考: https://design.studio/work/airbnb

Spotifyのコーポレートアイデンティティ: キャズムを乗り越えるためのコーポレートアイデンティティ。

多くのスタートアップ企業にとって、ユーザー層がアーリーアダプターから大衆へと移行するタイミングは、コーポレートアイデンティティ強化に最適なタイミングです。主に初期のスタートアップ企業は、プロダクトの機能性を全面に打ち出し、ニーズが強くマッチしたユーザー(アーリーアダプター)からの指示によって成長します。

ある程度アーリーアダプターに浸透したサービスは、大衆への浸透を目指すことになります。多くのスタートアップ企業が、この一般大衆への浸透でつまづくことになります。これは、「キャズム理論」とも呼ばれています。コーポレートアイデンティティは、このキャズムを乗り越えるための戦略としても重要になります。Spotifyも同様にこの、大衆への浸透を目指すタイミングでコーポレートアイデンティティを一新しました。

ビジュアルアイデンティティ

Spotifyのビジュアルアイデンティティは、音楽を聞いた時の人間の「反応」を表現しています。泣く、元気付けられる、叫ぶ、歌う、ジャンプするといった行動をグラフィックで表現しています。また、一貫してバイカラー(2色の配色)を使っていることも特徴で、シンプルでありながら力強いユーザーの体験を表現しています。

Spotifyのビジュアルアイデンティティ
Spotifyのビジュアルアイデンティティ
Spotifyのビジュアルアイデンティティ

参考: https://www.wearecollins.com/work/spotify/

まとめ

この記事では、コーポレートアイデンティティの定義から、その重要性と構成要素を紹介しました。海外有名企業のコーポレートアイデンティティ構築の例を見ても分かる通り、コーポレートアイデンティティとして定義した理念一つで企業の未来が大きく変わります。仮に、Airbnbが単に「宿泊場所を提供する企業」として自信を定義していたら、現在のAirbnbは大きく異なるものになっていたでしょう。企業と求職者のマッチングにおいても会社のビジョンへの「共感」が重視されるようになってきました。このように、コーポレートアイデンティティは、このように企業にとって重要な戦略の一つとなっています。

今回の例では、「提供するサービスが一つ」である企業を紹介しました。この場合は、コーポレートアイデンティティと提供するサービスのブランドアイデンティティが同一となる場合が多いです。逆に、提供するサービスが複数存在する場合には、それぞれのサービスのブランド戦略を考えることになります。ブランディングに関する解説記事では、ブランド構築の際のリサーチ手法などについても詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。

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