
デザインシステムとは?
デザインシステムとは、ブランドと顧客のタッチポイントにおけるデザイン表現をルールやコンポーネントとして再利用可能な形で体系化したドキュメントで、一貫性を持ったブランド表現を提供するために用いられます。
デザインシステムには、デザイン原則、スタイルガイド、デザインコンポーネントなどが含まれ、包括的にブランドのデザイン表現を定義したものとなります。
また、デザインシステムは組織のデザイン文化そのものを示すものでもあります。プロダクトに関わるすべてのメンバーが、デザインシステムを共通言語として理解し、活用することで、コミュニケーションの円滑化やコラボレーションの促進にもつながるのです。つまり、デザインシステムは一貫性と効率性を高めるだけでなく、組織全体のデザインへの取り組み方を変革する力を持っているともいうことができます。
デザインシステムの3つの構成要素
デザインシステムは、主に以下の3つの構成要素から成り立っています。
デザイン原則:デザインシステムの基盤となる考え方や方針
スタイルガイド:色やタイポグラフィなどの具体的なデザインルール
コンポーネントライブラリ:再利用可能なUIパーツの集合体
それぞれの構成要素について詳しく見ていきましょう。
デザイン原則
デザイン原則とは、デザインシステムの中核をなすコンセプトで、プロダクトやブランドのデザインにおける意思決定の指針となるものです。シンプルさ、一貫性、ユーザー中心といった普遍的な原則から、個々のプロダクトやブランドに固有の原則までさまざまなレベルで定義されます。
デザイン原則は、デザイナーやエンジニアがデザインに関する決定を下す際の拠り所となるだけでなく、プロダクトの目的や価値観を反映するものでもあります。したがって、デザイン原則を策定する際には、組織のビジョンやミッションといったコーポレートアイデンティティとの整合性を図ることが重要です。新しい機能や要件が追加される際にも、デザイン原則に立ち返ることで、一貫性のある意思決定が可能になります。
スタイルガイド
スタイルガイドは、デザインシステムにおける具体的なデザインルールを定めたドキュメントです。デザイン原則に基づき、色・タイポグラフィ・レイアウト・アイコンなど、ブランド表現のあらゆる側面について詳細な指針を記載するものです。
スタイルガイドは、デザインの一貫性を維持するために重要で、デザイナーがデザインを制作する際の共通言語としての役割を果たします。また、スタイルガイドはブランド表現を視覚化したものでもあるため、組織内外のステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にする効果もあります。
コンポー ネントライブラリ
コンポーネントライブラリとは、再利用可能なUIパーツを集めたものです。ボタン・フォーム・カード・ナビゲーションなど、プロダクトを構成する基本的なUI要素がコンポーネントとしてまとめられます。
コンポーネントは、エンジニアがコードレベルで実装できるような情報として提供します。これにより、デザイナーとエンジニアが同じUIパーツを共有し、一貫したUXを提供できるようになります。新しい機能や画面を作成する際に、既存のコンポーネントを組み合わせるだけで、短時間でデザインシステムに準拠したUIを構築できるようにもなります。また、コンポーネントライブラリを使った実装には、デザインシステムが実装レベルで一貫性を担保することを助ける役割もあります。
デザインシステムを公開している企業や組織の事例
「具体的なデザインシステムを見てみたい」といったニーズにお応えするため、国内・海外の企業や組織の中でデザインシステムを公開している事例をまとめてご紹介します。なお、デザイナーが実際にデザインシステムを構築する際の参考にしやすいよう、Figmaコミュニティファイルを公開している組織を多く紹介しています。
デジタル庁 | 多くのデザイナーが参考にしているデザインシステム
https://www.digital.go.jp/policies/servicedesign/designsystem/
デジタル庁のデザインシステムは、日本のデジタル庁が運用するデザインシステムです。政府のWebサイトやアプリのデザインを統一し、ユーザーにとって使いやすいものにすることを目的として、オープンな運用を目指しています。
サイト内では以下の情報が提供されています。
スタイル
コンポーネント
テンプレート
イラストレーション・アイコン素材
これらの情報は効率的なデザイン検討を実現し、大規模サービスでの素早い改善サイクルを可能にします。また、使い方から丁寧に解説されているため、初めてデザイン制作をする方も目を通しておくべき貴重なデザインシステムと言えるでしょう。デザインシステムのFigmaファ イルも提供されています。
SmartHR(SmartHR Design System) | 書籍を通して制作背景も学べる
https://smarthr.design/
SmartHR Design Systemは、「だれでも・効率よく・迷わず。」をコンセプトに作成された、SmartHRらしい表現ができるようにするた めのデザインシステムです。このシステムは、すべての人によりよい体験を提供することを目的とし、SmartHRに関わる人なら誰でも利用・参加が可能です。
基本原則には、SmartHRのデザインの根底にある4つのパーソナリティ(誠実・ポジティブ・わかりやすい・親しみやすい)といった価値観があり、基本要素としてロゴ・色・イラストレーションが含まれます。また、アクセシビリティに重点を置き、誰でもSmartHRが使えるような、ガイドラインやチェックツールも閲覧可能です。
さらに、スケーラブルで一貫性のあるプロダクト設計のためのガイドラインとオープンソース「SmartHR UI」の利用方法も紹介されています。コミュニケーションの一貫性を保つためのアイテムとガイドラインも提供し、マーケティングやセールス、カスタマーサクセスなどさまざまな場面で利用されています。Figmaにて、UIコンポーネントライブラリが提供されています。
Cookpad(Apron) | 料理を魅力的に見せる工夫がたくさん!
https://www.figma.com/community/file/847372282968994272/apron
Figmaで公開されているCookpadのデザインシステム「Apron」は、Cookpadに関連するデザイン制作を支援するために開発されました。料理の写真を魅力的に見せるための工夫が多く取り入れられており、Cookpadらしいデザインシステムとなっています。Figma Communityで公開されており、Cookpadのチームはこのデザインシステムを通じて、イラスト、アイコン、カラーなどを共有しています。
Google(Material Design) | 誰もが使えるオープンなデザインシステム
https://m3.material.io/
Material DesignはGoogleが開発したオープンソースのデザインシステムで、美しく使いやすい製品の迅速な開発を支援します。最新バージョンであるMaterial 3では、デザインと製品構築のためのガイドライン、コンポーネント、ツールを提供し、ユーザーインターフェース設計のベストプラクティスをサポートします。
このシステムはデザイナーと開発者間のコラボレーションを促進し、チームが迅速に美しい製品を構築できるようにすることを目的としています。Material Designには、Figmaデザインキット、Jetpack ComposeによるAndroidアプリの構築サポート、新しいコンポーネントやモーションシステムのアップデート、カラーシステムや動的カラーの利用を容易にするMaterial Theme Builderなどが含まれています。
IBM(Carbon Design System) | オリジナルの書体も含めオープンソースのデザインシステム
https://carbondesignsystem.com/
Carbon Design SystemはIBMのオープンソースデザインシステムで、製品やデジタル体験のために設計されているものです。IBM Design Languageを基盤とし、実用的なコード・設計ツールとリソース・ヒューマンインターフェースのガイドライン・活発なコントリビューターコミュニティで構成されています。
このデザインシステムには、Webサイトやインターフェースを構築するための再利用可能なコンポーネントのコレクションを提供するコンポーネントライブラリが含まれています。FigmaキットやSketchキット、さまざまなフレームワーク(React・Angular・Vanilla・Vue・Svelte・Web Components)用のCarbonコンポーネントが提供されているため、開発者はこれらのリソースを使用して、効率的な製品設計・開発が可能となるのです。
Shopify(Polaris) | 参考事例が貴重な管理 画面のデザインシステム
https://polaris.shopify.com/
PolarisはShopifyの管理画面におけるマーチャント体験を形作るためのデザインシステムです。このシステムには、高品質な管理体験を作り出すための根本的なデザインガイダンス(Foundations)、管理インターフェースを構築するためにコードを通じてパッケージ化された再利用可能な要素とスタイル(Components)が含まれています。また、色・間隔・タイポグラフィなどのデザイン判断を表すコード名(Tokens)や、400以上のアイコン(Icons)も提供されています。
さらに、コードエディタであるVSCode用のPolarisをインストールすることで、お気に入りのコードエディタ内でPolarisトークンの自動補完機能を利用できるようになります。Figmaコミュニティファイルも提供しています。
Adobe(Spectrum) | 2023年12月には最新版のリリースを発表
https://spectrum.adobe.com/
Adobe Spectrumは、製品チームがより効率的に作業できるようにするコンポーネントとツールを提供するAdobeのデザインシステムです。Adobe XDプラグイン・UIキット・フォント・アイコンなどのリソースなどもダウンロードできます。また、Spectrum CSS、React Spectrum、Spectrum Web Componentsなど、詳細な使用ガイドラインとパートナーシップを組むオープンソースの実装を利用することで、デザインシステムの制作に役立てられます。
Adobeは2023年12月に「Spectrum 2」のリリースを発表しました。このアップデートでは、アクセシビリティなども含めたデザイン要素を包括的に改善したことで、新たなツールも続々と登場している現代のデザイン環境に適応した、より強力なデザインシステムとなりました。
Audi | オンライン・オフライン通して一貫したブランド表現の事例
https://www.audi.com/ci/en/renewed-brand.html
デザインシステムを公開する企業にはソフトウェア企業が多い印象ですが、ドイツの高級車メーカーAudiもデザインシステムも公開しています。Audiのコンポーネントライブラリには、ブランドアイデンティティ、グローバルコンポーネント、リージョナルコンポーネントなどが含まれています。また、Audiのブランドガイドラインでは、Audiのブランド表現がUIのみならず、オフラインでのプロモーションや空間デザインなど多岐にわたる分野で一貫性を持って定義されている様子をみることができます。
イギリス政府 | 政府系デザインシステムとして海外でも参考にされている
https://design-system.service.gov.uk/
イギリス政府のデザインシステムは、GOV.UKのスタイル、コンポーネント、パターンを使用して政府サービスを一貫性のあるものにするためのシステムです。他のサービスチームの研究と経験から学び、すでに行われている作業を繰り返さないように設計されています。
このシステムは、レイアウト・タイポグラフィ・色・画像の適用ガイドを含むスタイルやフォーム、ナビゲーションやパネル、テーブルなどの再利用可能でアクセシブルなコンポーネント、共通タスクの完了を支援するパターンを提供しています。
デザインシステムを導入する5つのメリット
デザインシステムを導入することで、以下の5つのメリットが得られます。
一貫性のあるブランドメッセージの発信
品質の向上
コスト削減
工期短縮
コミュニケーションの円滑化
一貫性のあるブランドメッセージの発信
デザインシステムには、ブランド表現のルールを継承したデザイン原則やスタイルガイドが定義されており、これらに沿ったコンポーネントを使用することで常に一貫性のあるブランド表現 を行うことができます。一貫性を持ったブランド表現は、顧客の認知やブランドとしての信頼性を高めてくれます。