
突然ですが、皆さんは自分の仕事を周りに何と説明していますか?
〇〇デザイナーといった職種名は”何をデザインするのか”というデザインの対象に視点を置いたものとなっているものの、デザインの対象や責任範囲がえてして横断的であるデジタルデザイン界隈では、これらの職種名が正確な職責を反映しているケースは少ないのではないでしょうか?
結局、これらの職種を名乗る者も、募集する企業もそれぞれの事情で便宜的に使い分けているケースが多いと思います。
思い切って「デザイナーです」とまとめてしまうのも良いですが、さすがに意味合いが広すぎる。
また、UI/UXデザイナーという表記に関する論争は終わった…というより誰も触れなくなったし、誰も触れたくない話題のような気もします。しかしながら、国内求人情報サービス6サイトの求人票を集めてみると、今現在も”UI/UXデザイナー”としての募集が圧倒的に多いという現状。
結局、多岐にわたる担当領域と、気持ち良く自身のアイデンティティを表現してくれる職種名の不在により、デジタル領域のデザイナーたちのアイデンティティは崩壊するのです。
デザインの対象はそれほど重要だろうか?
デザインという言葉の定義にまつわる一般的な歴史的背景を簡単にまとめると、
20世紀初頭に始まったモダニズム運動にて、デザインは具体的なモノの審美性と機能性に焦点を当てていた
1940年代以降、デザインの対象が無形のサービスや体験などの抽象的な概念に広がる
現在、デザインとは具体的なアウトプットの有無に関わらず、創造的な問題解決と価値創造のプロセスである
といった感じでしょうか?
もともとモノを作る営みであった”デザイン”は、そのプロセスを抽出されて、無形のサービスや抽象的な概念にまで”その対象を広げた”。というのが、近年よく聞くデザインの拡大についての解説だと思います。
しかし、本当にそうでしょうか?
このデザインの”対象”という見方が多くの誤解を生んでいるのではないでしょうか?職種名の混乱を生んでいる、”何をデザインするか”というデザインの”対象”はデザイナーの本質的なアイデンティティを左右するほど重要な要素なのでしょうか?
デザインにおいて抽象は常に通る道。デザイナーをデザイナーたらしめるものの存在。
UI/UXデザイナーという名称に対する批判でよく見かける「UIとUXは別物だ」という意見。確かにこの2つをデザインの”対象”として考えるとUIは具体的、UXは抽象的なもので”全くの別物”のように見えます。その範囲の広さも異なるように見えます。特にデザイナーではない人から見れば、この2つの課題解決にはそれぞれ異なるスキルセットを要するものに見えると思います。
しかし、実際にUI/UXデザイナーと名乗ったことがある多くの人たちは、この二項対立的な構図に違和感を感じるのではないでしょうか?「別にUXリサーチもするし、UIも作るよ」という人がたくさんいるのです。
具体的な”モノ”を作っていたデザイナーが、なぜユーザー体験やサービスといった抽象的な概念をデザインできるのか?それは、デザイナーは具体的な”モノ”を作るプロセスの中で、そもそもいつも抽象的なプロセスを経ているからだと思います。UIをデザインするときも、UX戦略を考えるときも、デザイ ナーの頭の中ではデザイン対象として具体と抽象が分かれているわけではなく、課題解決に辿り着く過程で必ず抽象的な思考を通っていて、デザイン対象に関わらずプロセスはほとんど同じはずなのです。
もちろん、極限までプロダクトデザインのプロセスが分業化されていて、最終的なUIに決められた色をつけるだけのような作業をUIデザインと呼ぶのであれば、それはUXデザインとは遠い作業でしょう。しかし、それはもはや”デザイン”ですらないはずです。