インタビュー

生成AIとデザイナーの向き合い方。「自己否定を受け入れる」大切さ

最終更新日:2024.08.14
生成AIとデザイナーの向き合い方。「自己否定を受け入れる」大切さ

生成AIはUXデザイナーにとってどんな存在たりうるのか? 今回はAI戦略や体験設計も担当するエクスペリエンス・デザイナー・川村将太(しょーてぃー)さんに、「生成AIとデザイン業界」についてインタビューし、デザイン業界への生成AIの影響や向き合い方についてお話を伺いました。

デザイナーの集まるコミュニティ「Designer's HYGGE」の運営にも携わっている川村さん。こちらの記事では「デザイナーとコミュニティ」についてたっぷりお話いただいてます。

今回お話を聞いたデザイナーさん
川村将太(しょーてぃー)さん

経済学部を卒業後、新卒で事業会社に入社。UXデザイナーとして戦略やマーケティングを重視した体験設計を担当。現在は、モビリティ系の会社にてExecutive AI Directorとして全社AI戦略検討・推進。同時にフリーランスでは、Experience Designerとして企画・デザインプロセスへの生成AI活用そして、AIとユーザーの包括的体験設計などに携わる。

デザイン業界での生成AIの状況は?

川村将太(しょーてぃー)さん

―― デザイン業界での生成AIの活用状況はいかがでしょうか?

日に日にデザイナーの業務の中に生成AIが入ってきている印象です。例えば、多くのデザインプロセスではユーザーインタビュー結果を分析して視座を出し、要件・コンセプトを決めるプロセスを取ると思います。それがすぐに社会実装されるかはまた別の問題ですが、現状、そのプロセスにAIが食い込んできています。

―― かなりのスピードでデザイナーと生成AIの関係は変化していっているんですね。

通常、モノづくりにはある程度時間がかかります。 UXデザインでも一度モックを作ってユーザに使ってもらい、インタビューして改善していくプロセスがある。これはあくまでもモノの例えですが、リニアモーターカーをとっても、作る話が立ち上がってから数十年開通してないですよね。これがAIの場合だと開発の芽が見えたらすぐに研究論文が出て、論文の2週間後にはプロトタイプができて、1カ月後には製品に乗ることだってある……。AIの発達速度はそれくらいのスピード感なんです。

―― すごいスピード感ですね。

生成AIに関しては何が正解か、どういった課題があるか、まだ手探り状態です。今の状況でできることをやってみることが大切だと思います。

―― 昨今、主にクリエイティブな分野で、生成AIに関する拒否感をSNSで目にする機会が多いと感じますが、川村さんはどう思われますか?

そういった反応は真っ当だと思います。実は先日、とある芸術大学で生成AIとの共生に関する授業をしたのですが、生徒さんからも似たような反応が多かったです。

人間が身体や道具を使って作ってきた創作物が、よく分からない仕組みで、人間が作ったモノに近いモノとしてできあがってくる。これに「生存の危機」のようなものを感じるのもおかしくないと思います。もしくは、AI自体をテクノロジーや道具と捉えているからこそデザイナーには拒否感があるのかもしれませんね。

―― なるほど。

生成AIに向き合えば、「制作物が勝手に使われるかも」「経験やスキルが代替されてしまうかも」という恐怖や危機感が本能的なレベルで生じてしまうと思います。しかし、そういう方もAIを思考や身体性を拡張するものと捉えて、今後について考えるきっかけを持てたらいいなと思っています。

―― 模倣されたり、無断利用されたりする不安はつきまといそうです

しかし、これは難しい話でして……。僕たちも、先人の作品を参考にし、そこから学びを得て自分のスタイルを確立していきます。生成AIは大規模な言語モデルや深層学習の手法を用いて、膨大なデータから複雑なパターンや関係性を学習し、新しい出力を生成します。簡単に答えの出る話ではないですが、「人とAIとの模倣の違いは?」というのは、重要な問いだと思います。

―― デザイナーの仕事がAIに代替されてしまうのでしょうか?

AIが人間が行っていることを強化していく流れは不可逆なので、どうあがいてもデザインのみならず現在の人間の仕事はAIに代替されていくと思います。「どうやったら生成AI時代を楽しめるのか」という方向にシフトしていたほうが生きやすいかもしれません。

デザイナーとして生成AIと向き合う川村さん。生成AIとの向き合い方は?

川村将太(しょーてぃー)さん

―― 川村さんご自身はエクスペリエンス・デザイナーとしてご活躍中ですが、生成AIの仕事を目の当たりにしたとき、どのように感じましたか?

「ぽかーん」としてしまいました(笑)。AIもある程度はできると思っていましたが、実際の成果を目にしたときはショックでした。当時はUXデザイナーとして、ユーザーリサーチの分析やそこから視座を出せるのが「自分のスキルだ!」と思っていたんです。それが、AIに同じようなことをやってもらったら、時間もかけずに良い線を突いたレポートが出てきてしまいまして……。自分がやってきたことは何だったんだろう、培ったスキル・経験・自信は何だったんだろうと考えましたね。自分を否定された気持ちになりました。

――そういったご経験があった上で、生成AIを受け入れたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

自己否定を受け入れることができたからだと思います。AIが台頭する以上、同じような自己否定は繰り返すんだなと考え「落ち込むよりもAIをどう活かすか」という思考に変わりました。否定されて終わり、ではなく「こういうことにも使えるかも」と、遊び心を持って探索する方向に舵を切れたのは大きいと思います。

―― 自己否定を受け入れるというのは、大きな意識改革が必要な気がします。

自分が信じたものを壊されてもポジティブに変換できるのは重要だと思います。自分自身も何度か辛いと思うことはありましたが、対立するのではなく受け入れる発想の転換は大事だと思います。

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生成AIが台頭する時代だからこそ感じるコミュニティの必要性

川村将太(しょーてぃー)さん

―― 生成AIの台頭で辛さを感じてしまうデザイナーも多いと思います。そういった方には何が必要だとお考えですか?

「デザイナーとコミュニティ」の話に戻りますが……。AIが台頭する時代だからこそ、「なんでデザインしたんだろう」「どう考えたんだろう」など、人がデザインに込めた思いに触れることが大切だと思います。デザインの裏側を知るためには、コミュニティの存在が大きくなっていくかもしれないですね。

デザインの裏にある強い想いに触れると、触れた人の心に伝染して小さな火が灯ると思うんです。私が運営にかかわる「Designer's HYGGE」でも、月一でゲストトークを開催しており、そこで人の想いを引き出して聞いている人に伝染させられるような役割を持てたらと思っています。

そのように実際にデザインした人間とかかわって想いを知ることで、人にしかできないデザインの仕事の在り方を考えられるのでは、と思います。

―― 今日はお話をありがとうございました!

今回お話を聞いた川村さんのXアカウント(@shoty_k2)では、デザインや生成AIに関する最新の情報を発信されています。ぜひフォローしてみてください!

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AI
執筆荒井啓仁

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