
コンテンツ配信サービスにおいて、「人気ランキング」は必須の機能でもあるかのように多くのサービスで取り入れられています。もちろん、ランキングはユーザーにとってコンテンツ選びの重要な指針となる上、サービス運営視点でも効率的なレコメンデーション手法であることは確かです。
一方で、ランキングのような数値的な人気指標を取り入れないという方針を持ったnoteのようなサービスも存在します。これは数値的な人気指標の弊害を強く認識しているからこその選択でしょう。しかし、数値的に表現できる"人気"の定義自体を問い直すことで人気ランキング機能が持つ課題点を解決しようとする取り組みはあまり目にしたことがありません。
人気ランキングの弊害。強者総取りの世界
人気ランキングによるコンテンツとの出会いは、いつの時代も「人気が人気を生む」というジレンマを抱えていました。もちろん注目を集めるコンテンツは他の多くの人にとって良いものである可能性は高いでしょう。しかし、この人気ランキングの仕組みは新たなコンテンツやクリエイターが注目を浴びる機会にはつながらないことも事実です。
また、視聴数やクリック数にもとづいた「人気」の定義が一般化することで、このアルゴリズムを”ハック"するようなコンテンツ作りが浸透したのも事実です(いわゆる釣りタイトルや炎上狙い記事など...)。
とにかく多くの人に見られるコンテンツが良いコンテンツなのだろうか?消費されやすいコンテンツにばかり注目が集まることは、本当に良質なコンテンツとの出会いというユーザー体験を奪ってしまっているのではないだろうか?
YouTubeが現在ベータテスト展開している「Hypeランキング」という新たなランキング指標が革新的な取り組みとなっているので紹介します。
革新的な指標「Hype」ファンエンゲージメントを数値化する取り組み
なぜ、YouTubeの一つの新機能「Hype」がそんなに革新的なのか?
それは、「熱心なファンによるエンゲージメントの深さ」を起点に人気ランキングを設計している点にあります。YouTubeはマイナーなクリエイターを舞台に上げるためのきっかけとなる数値的な指標を作ったのです。
現在数カ国でベータテスト中の「Hype」の仕組みはこうです。
「Hype」ボタンは登録者数50万人以下のクリエイターにより7日以内に投稿された動画にのみ表示される
ユーザーは週に3回までだけ「Hype」ボタンを押せる
チャンネル登録者数が少ないほど、1 回の「Hype」で適用されるポイントが高くなる
「Hype」ポイントが高い順に、週間「Hype」ランキングTOP100に動画が掲載される
「Hype」ボタンを押せる回数の制限や、マイナーなクリエイターにのみ表示されるといった点、チャンネル登録者数が少ないほど1回の「Hype」の価値が高くなる点がファンエンゲージメントの”深さ”を測るための工夫となっていそうです。
つまり、普段多くの人の目に触れる機会がないマイナーなクリエイターにも表舞台に立つ機会を与えられるということです。ファンエンゲージメントの深さを数値化してサービスのレコメンデーションに反映する取り組みとも言えそうです。
当たり前を変える工夫
コンセプト段階では、コメントの応援や動画の特定の部分のスポンサーになれる機能など様々な方向性が検討・テストされたとのこと(https://blog.youtube/news-and-events/youtube-hype/)
人気ランキングのアルゴリズムはすでに当たり前に存在するもので、それをどのように改善するかという観点はほとんどのサービスには欠けていました。しかし、YouTubeの事例のように「どうすればマイナーなクリエイターにもチャンスを与えられるか」という課題に取り組むことができたのは、今や当たり前とされている「人気ランキング」の仕組みを問い直したからでしょう。
このような当たり前を問い直す姿勢はユーザー体験のデザインにとって重要な視点となりそうです。
参考