心理学

メンタルモデルとは?ユーザー心理の調査方法や活用シーンを解説

最終更新日:2024.02.11編集部
メンタルモデルとは?ユーザー心理の調査方法や活用シーンを解説

メンタルモデルとは?

メンタルモデルとは?

メンタルモデルとは、個人の頭の中に存在する実世界に対する認識や解釈に関する認知モデルで、認知心理学の用語です。メンタルモデルは個人の過去の経験などに結びつき、価値観に基づいてできあがるものとされています。

たとえば「犬は可愛い動物」というメンタルモデルを持っている人もいれば、「犬は怖い動物」というメンタルモデルを持っている人がいます。後者の場合、もしかすると子どもの頃、犬に追いかけられて噛まれた経験があるのかもしれません。この違いは、今まで犬とどのように触れ合ってきたか、という経験によって変わることは想像に容易いでしょう。

例のようにメンタルモデルは多様にあるため、時にはコミュニケーションの障壁となることもあります。そのため、相手のメンタルモデルを受け入れる努力をすることが、良好な人間関係やチームワークの形成には不可欠と言えるでしょう。

また、メンタルモデルは日常生活だけでなく、ビジネスの現場や教育現場など、さまざまな場面で活用されています。メンタルモデルを活用することで、他人に抱いてもらいたいイメージをある程度操作することも可能です。教育やコーチングなどの分野でも、受講者やクライアントのメンタルモデルを把握し、それに適した指導やサポートをおこなうことで、学習効果や自己成長を効果的に促進できるのです。

4つに分類されるメンタルモデル

メンタルモデルの4分類

ここではメンタルモデルを解説している書籍である「ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー」を参考に、4つに分類されるメンタルモデルを解説します。

  • 価値なしモデル

  • 愛なしモデル

  • ひとりぼっちモデル

  • 欠陥欠損モデル

メンタルモデルは生きてきた経験全般で形成されるものとされていますが、この本ではその中でも、人間が過去体験した不本意な現実や痛みを切り離すため、「自分もしくは世界とはこういうものだ」と無意識に感じている部分にフォーカスし、独自に定義しています。

価値なしモデル

「価値なしモデル」とは、自分自身が「人としての価値がない」という信念を持つモデルを指します。

Quote

「自分がただありのままで存在しているだけでは、価値あるものとして認めてはもらえない」という類の、命としてただ存在すること、自分の存在そのものに価値があるという、「あるはず」だった世界が欠損している、という痛みになっています。 この結果、他の人に対して価値を出せなかったら自分にはここにいる価値はない、と思い込む、「価値なしモデル」ができあがります。

ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.175

この信念は、過去の経験やトラウマ、他者との関係性などから形成されることが多くあります。たとえば、幼少期に親や周囲からの評価や承認を得られなかった人は、自分には価値がないと感じることがあり、自分を過小評価する傾向が強まります。

また、このモデルを持つ人は、他者との関係性においても自分の価値を疑問視し、他者からの評価や反応に過度に敏感になることがあるのです。その結果、人間関係の中でのコンフリクトやストレスが増加し、自己肯定感が低下する可能性が高まります。

愛なしモデル

愛なしモデルは「わたしは誰からも愛される資格のない人間だ」という価値観を指すモデルです。

Quote

愛なしモデルは、自分が求める愛はない、自分は望む形で愛してもらえないという欠損の体験からOSがつくられているので、恒常的な「寂しさ」を抱え、人との一対一の深いつながりに対する渇望感と恒常的な不安があります。

ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.177

愛なしモデルを持っている方は、自分を愛してもらうためにひたすら相手に奉仕するという形で、自己犠牲的に愛を与えようとするパターンに陥る傾向があります。しかし、自身が求めている反応が得られなかったとき、「こんなに自分は愛をかけているのに、自分は相手から望むようには愛されない」という感情と、自分の向けた愛を搾取されるような感覚の中に生きてしまうのです。

その結果、自分は愛される資格がないんだという信念が生まれ、人間関係やコミュニケーションに大きな影響を及ぼし、孤独感や疎外感を生む原因になることがあります。

ひとりぼっちモデル

ひとりぼっちモデルは、人々が日常生活で経験する痛みや不安を避けるために無意識に形成される信念や思い込みのことを指します。

Quote

絶対的につながっているものに切り離された、という痛みと、さらにその痛みを避けるために自分から切り離す、といった痛みを抱え、所詮つながりは断たれるものだ、人は自分のところから離れていくものだ、という割り切りの感覚と、どうせ自分はこの世界にひとりで生きているんだ、という独特の「孤独感」を持って生きています。

ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.179

このモデルを持っている方は、もともとあると思っていたつながりを喪失しても、「自分はひとりだからひとりで生きられるように強くなる」という回避行動になります。子どもの頃に親や友人からの愛情を受け取れなかった人や、なんらかの理由で社会的な孤立を経験した人は、この「ひとりぼっちモデル」を形成する可能性が高いのです。

この考えが強まると、他者とのつながりや愛情を持つ資格がないと感じることが多く、他者との関係を築くことが難しく、孤独感や疎外感を強く感じることが多くなります。

欠陥欠損モデル

欠陥欠損モデルは「人として持つべき決定的なものが欠けた人間だ」と自己評価する信念を指します。

Quote

「自分はここにいてはいけないんじゃないか?」といった世界に自分が存在することに漠然とした不安を抱え、何かまずいことが起きると必ず、自分のせいだ、自分が至らないからだ、と自分を責める反応を起こすのが特徴です。人の目が気になり、大勢の中にいると緊張し、場の空気を乱すんじゃないかととても気をつかった言動をとります。

ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.180

このモデルは、自分にある個性を許容できず、他人と比較して欠陥や欠損を感じることから生まれます。このモデルに基づくと、人は自分の欠陥や欠損を認識し、それを隠蔽または補完するための行動をとることが多くなります。このような行動は、痛みや不安からの回避を目的としていますが、長期的には自己認識の歪みや自己否定を生む可能性が高まってしまうのです。

メンタルモデルを利用した悪質なデザインの例

ここでは書籍の「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」を参考に、メンタルモデルを逆手に利用したよくないデザイン例について3つほどご紹介します。

  • 視覚的干渉

  • コンファームシェイミング

  • おとり商法

人が一般的に持つメンタルモデルは、クリエイティブにも活用できます。そしてその考えは、プラスにも使えますがマイナスにも利用できる点を理解しておくことは重要です。無自覚であっても、悪いデザインやUIを構築してしまわないようにしましょう。

視覚的干渉

視覚的干渉

視覚的干渉とは、色や文字のサイズ、レイアウトなどの視覚的要素を利用して、ユーザーを特定の選択に誘導したり、あるいは遠ざけたりするテクニックを指します。

具体的には、ユーザーに選択させたい選択肢を目立つ色や大きなサイズのボタンで提示し、それ以外の選択肢は目立たない低コントラストの色や小さなサイズで表示するなどの手法が挙げられます。このようなビジュアルデザインを駆使することで、ユーザーの意識や行動の操作が可能です。たとえば、Webサイトの解約ページのキャンセルボタンをグレーアウトし、一見ボタンが利用できない、または無効であるかのような印象を与えるような、よくないデザインが存在します。

また、Webマーケティング業界ではよく「赤のボタンと緑のボタンでどちらがクリックを集めるか」という話題があがりますが、さまざまな企業がおこなったA/Bテストでそれぞれ結果が異なることがわかっています。つまり「普遍的にクリックされやすいボタンの色」は存在せず、ボタンはユーザーが押しやすいかどうかがもっとも重要であるのです。

コンファームシェイミング

コンファームシェイミング

コンファームシェイミング(羞恥心の植え付け)とは、ユーザーの感情に訴えかけて、オファーを断りづらくさせるダークパターンのことです。このデザインでは、ユーザーに「断ることに罪がある」と感じさせることを目的としています。

具体的には、「この選択肢を選ばないのは愚かである」といったような感情的なコピーを使用して、ユーザーにプレッシャーをかけることで、特定の行動を取らせようとするものです。

ひとつ事例を挙げると、ニュージャージー州にあるコーヒーマシンの販売会社では、セール期間中、通販サイト内にあるポップアップの閉じるボタンに「いいえ、お買い得情報を逃しても大丈夫です」といったコピーを設置しました。その結果、収益面では効果が出たものの、ブランドへの愛着や信頼の度合いを示す「ネットプロモータースコア」は20%以上低下したというデータがあります。

過度なものでなければ許容される手法ですが、一般的な感覚では受け入れられにくい場合が多いため、使用する際には注意が必要です。

おとり商法

おとり商法

おとり商法は、ユーザーを誘導するための情報を餌として利用し、ユーザーに意図しない行為をさせる手法です。

具体的な例として、Windowsのアップデート通知画面での×ボタンの挙動が挙げられます。通常、Windowsの×ボタンは「閉じる」の意味を持ちますが、OSのアップデート通知画面では「コンピューターをWindows10にアップグレードしたい」という意味に変更されていました。このため、多くのユーザーが意図せずにアップデートを実行し、不満や反感を持つ事態が生じました。

このような手法は、ユーザーの期待や経験に基づく行動を逆手に取り、意図的に誤解を生み出すことを目的にしているものです。おとり商法を取り入れることで、仮に企業側に多少のメリットがありそうでも、ユーザーの信頼を損なう可能性が高いため避けなければなりません。

メンタルモデルダイアグラムでユーザー心理を整理する方法

ここでは、ユーザーのメンタルモデルを整理する方法について解説します。その中でも、メンタルモデルの全体像を整理する「メンタルモデルダイアグラム」について、基本的な概念やその具体的な進め方について解説します。

メンタルモデルダイアグラムとは?

メンタルモデルダイアグラム

メンタルモデルダイアグラムとは、ユーザーの考えや認識を視覚的に整理・表現する手法です。具体的には、ユーザーの知識・経験・感情・動機などを、ダイアグラムとしてマッピングします。

この手法は、ユーザー研究やインタビューの結果をもとに作成することが多いため、実際のユーザーの声を反映した設計が可能です。メンタルモデルダイアグラムの作成には、ユーザーの行動や考えを具体的なキーワードやフレーズで捉え、それを関連性や優先度に応じて配置するステップが含まれます。

このダイアグラムを利用することで、ユーザーの内面的な思考や感じることが理解できるようになるため、サービスやプロダクトの設計をおこなう際の参考にもできるでしょう。

メンタルモデルダイアグラムの進め方

メンタルモデルダイアグラムを作成するためのステップを以下に示します。

1. 情報収集

ユーザーインタビューやアンケートを活用し、ユーザーの考えを収集します。具体的な質問やシナリオを設定し、ユーザーの反応や意見を収集することが重要です。

2. 情報整理

収集した情報をカテゴリーやテーマに分け、関連性や優先度を明確にします。重要なポイントやユーザーの疑問点・課題を抽出し、特定の行動や考え方ごとにトピックをわけます。

3. メンタルスペース作成

整理したトピックに名前をつけます。このまとまりをメンタルモデルと呼びます。

4. ダイアグラムとして並べる

メンタルスペースを横並びにし、ユーザーの視点からの流れや関連性を明確に示します。

unprintedのxをフォローして、デザインの最新ニュースをリアルタイムでキャッチ!

まとめ

本記事では、メンタルモデルとその具体的な分類、悪質なデザインの例、そしてメンタルモデルダイアグラムの進め方について詳しく解説しました。

UIデザイン設計やサービス開発に携わる方々にとって、ユーザーの心理や行動を深く理解する手助けとなる内容になるかと思います。この記事を通じて、ユーザー中心のデザインやサービス開発に取り組む際の参考として、具体的なアクションや改善策のヒントになれば幸いです。

参考文献

  • 由佐美加子・天外 伺朗 (2019).『ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー』内外出版社

  • 仲野 佑希・宮田 宏美 (2022).『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』翔泳社

心理学

関連記事

Related Articles

最新の記事

Latest Articles

デジタルデザインの最新情報をお届け!

unprintedのメールマガジンにご登録いただくと、デジタルデザインの最新情報をメールで受け取ることができます。今までに配信したバックナンバーも公開中!

※登録ボタンを押すと利用規約に同意されたものとします。