
メンタルモデルとは?
メンタルモデルとは、個人の頭の中に存在する実世界に対する認識や解釈に関する認知モデルで、認知心理学の用語です。メンタルモデルは個人の過去の経験などに結びつき、価値観に基づいてできあがるものとされています。
たとえば「犬は可愛い動物」というメンタルモデルを持っている人もいれば、「犬は怖い動物」というメンタルモデルを持っている人がいます。後者の場合、もしかすると子どもの頃、犬に追いかけられて噛まれた経験があるのかもしれません。この違いは、今まで犬とどのよ うに触れ合ってきたか、という経験によって変わることは想像に容易いでしょう。
例のようにメンタルモデルは多様にあるため、時にはコミュニケーションの障壁となることもあります。そのため、相手のメンタルモデルを受け入れる努力をすることが、良好な人間関係やチームワークの形成には不可欠と言えるでしょう。
また、メンタルモデルは日常生活だけでなく、ビジネスの現場や教育現場など、さまざまな場面で活用されています。メンタルモデルを活用することで、他人に抱いてもらいたいイメージをある程度操作することも可能です。教育やコーチングなどの分野でも、受講者やクライアントのメンタルモデルを把握し、それに適した指導やサポートをおこなうことで、学習効果や自己成長を効果的に促進できるのです。
4つに分類されるメンタルモデル
ここではメンタルモデルを解説している書籍である「ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー」を参考に、4つに分類されるメンタルモデルを解説します。
価値なしモデル
愛なしモデル
ひとりぼっちモデル
欠陥欠損モデル
メンタルモデルは生きてきた経験全般で形成されるものとされていますが、この本ではその中でも、人間が過去体験した不本意な現実や痛みを切り離すため、「自分もしくは世界とはこういうものだ」と無意識に感じている部分にフォーカスし、独自に定義しています。
価値なしモデル
「価値なしモデル」とは、自分自身が「人としての価値がない」という信念を持つモデルを指します。
「自分がただありのままで存在しているだけでは、価値あるものとして認めてはもらえない」という類の、命としてただ存在すること、自分の存在そのものに価値があるという、「あるはず」だった世界が欠損している、という痛みになっています。 この結果、他の人に対して価値を出せなかったら自分にはここにいる価値はない、と思い込む、「価値なしモデル」ができあがります。
ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.175
この信念は、過去の経験やトラウマ、他者との関係性などから形成されることが多くあります。たとえば、幼少期に親や周囲からの評価や承認を得られなかった人は、自分には価値がないと感じることがあり、自分を過小評価する傾向が強まります。
また、このモデルを持つ人は、他者との関係性においても自分の価値を疑問視し、他者からの評価や反応に過度に敏感になることがあるのです。その結果、人間関係の中でのコンフリクトやストレスが増加し、自己肯定感が低下する可能性が高まります。
愛なしモデル
愛なしモデルは「わたしは誰からも愛される資格のない人間だ」という価値観を指すモデルです。
愛なしモデルは、自分が求める愛はない、自分は望む形で愛してもらえないという欠損の体験からOSがつくられているので、恒常的な「寂しさ」を抱え、人との一対一の深いつながりに対する渇望感と恒常的な不安があります。
ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.177
愛なしモデルを持っている方は、自分を愛してもらうためにひたすら相手に奉仕するという形で、自己犠牲的に愛を与えようとするパターンに陥る傾向があります。しかし、自身が求めている反応が得られなかったとき、「こんなに自分は愛をかけているのに、自分は相手から望むようには愛されない」という感情と、自分の向けた愛を搾取されるような感覚の中に生きてしまうのです。
その結果、自分は愛される資格がないんだという信念が生まれ、人間関係やコミュニケーションに大きな影響を及ぼし、孤独感や疎外感を生む原因になることがあります。
ひとりぼっちモデル
ひとりぼっちモデルは、人々が日常生活で経験する痛みや不安を避けるために無意識に形成される信念や思い込みのことを指します。
絶対的につながっているものに切り離された、という痛みと、さらにその痛みを避けるために自分から切り離す、といった痛みを抱え、所詮つながりは断たれるものだ、人は自分のところから離れていくものだ、という割り切りの感覚と、どうせ自分はこの世界にひとりで生きているんだ、という独特の「孤独感」を持って生きています。
ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.179
このモデルを持っている方は、もともとあると思っていたつながりを喪失しても、「自分はひとりだからひとりで生きられるように強くなる」という回避行動になります。子どもの頃に親や友人からの愛情を受け取れなかった人や、なんらかの理由で社会的な孤立を経験した人は、この「ひとりぼっちモデル」を形成する可能性が高いのです。
この考えが強まると、他者とのつながりや愛情を持つ資格がないと感じることが 多く、他者との関係を築くことが難しく、孤独感や疎外感を強く感じることが多くなります。
欠陥欠損モデル
欠陥欠損モデルは「人として持つべき決定的なものが欠けた人間だ」と自己評価する信念を指します。
「自分はここにいてはいけないんじゃないか?」といった世界に自分が存在することに漠然とした不安を抱え、何かまずいことが起きると必ず、自分のせいだ、自分が至らないからだ、と自分を責める反応を起こすのが特徴です。人の目が気になり、大勢の中にいると緊張し、場の空気を乱すんじゃないかととても気をつかった言動をとります。
ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー p.180
このモデルは、自分にある個性を許容できず、他人と比較して欠陥や欠損を感じることから生まれます。このモデルに基づくと、人は自分の欠陥や欠損を認識し、それを隠蔽または補完するための行動をとることが多くなります。このような行動は、痛みや不安からの回避を目的としていますが、長期的には自己認識の歪みや自己否定を生む可能性が高まってしまうのです。
メンタルモデルを利用した悪質なデザインの例
ここでは書籍の「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」を参考に、メンタルモデルを逆手に利用したよくないデザイン例について3つほどご紹介します。
視覚的干渉
コンファームシェイミング
おとり商法
人が一般的に持つメンタルモデルは、クリエイティブにも活用できます。そしてその考えは、プラスにも使えますがマイナスにも利用できる点を理解しておくことは重要です。無自覚であっても、悪いデザインやUIを構築してしまわないようにしましょう。
視覚的干渉
視覚的干渉とは、色や文字のサイズ、レイアウトなどの視覚的要素を利用して、ユーザーを特定の選択に誘導したり、あるいは遠ざけたりするテクニックを指します。
具体的には、ユーザーに選択させたい選択肢を目立つ色や大きなサイズのボタンで提示し、それ以外の選択肢は目立たない低コントラストの色や小さなサイズで表示するなどの手法が挙げられます。このようなビジュアルデザインを駆使することで、ユーザーの意識や行動の操作が可能です。たとえば、Webサイトの解約ページのキャンセルボタンをグレーアウトし、一見ボタンが利用できない、または無効であるかのような印象を与えるような、よくないデザインが存在します。
また、Webマーケティング業界ではよく「赤のボタンと緑のボタンでどちらがクリックを集めるか」という話題があがりますが、さまざまな企業がおこなったA/Bテストでそれぞれ結果が異なることがわかっています。つまり「普遍的にクリックされやすいボタンの色」は存在せず、ボタンはユーザーが押しやすいかどうかがもっとも重要であるのです。