心理学

心理的リアクタンスが教えてくれる、人が反発したくなるメカニズム

最終更新日:2024.02.11編集部
心理的リアクタンスが教えてくれる、人が反発したくなるメカニズム

心理的リアクタンスとは?

心理的リアクタンスとは?

心理的リアクタンス(Psychological reactance)とは、1966年にアメリカの心理学者であるジャック・ブレームが提唱した心理学理論で、人は自分が自由に選択できると思っていることに対して制限や強制をされてしまうと、抵抗や反発感情が生じる現象のことをさします。リアクタンスの語源は抵抗や反発を意味するリアクトという物理用語です。

この現象にはどのような心理的な背景があるのでしょうか。人は生まれながらにして、自分の行動や選択は自分自身で決めたいという欲求をもっています。それを他人に決められたり、選択の自由を制限されてしまうと、反発したり自分の意見に固執したくなる傾向があることがブレームにより確認されたのです。

たとえば子ども時代に親から「宿題は家に帰ったらすぐやりなさい」と叱られて、「言われなくてもやろうと思っていたのに」と、憤慨した経験はありませんか?あるいは仕事を進める中で「改訂版は次のフェーズに進んでから共有しよう」と計画していたところ、上司から「でき上がったら寝かさずに早く共有して」と催促をされてしまったとき。「この時間はほかの作業を進めるために使いたいのに」と反発を感じるのが心理的リアクタンスが発動している状態です。

ここでブレームが取り上げる「自由」とは、ある個人にとっての特定の具体的な行動の自由であることが特徴です。たとえば、その人にとっての仕事における自由を構成する要素が、裁量権があること、進行を任されること、リモートワークを選べることの3つだったとします。それらを使う権利をいつどのように使うのか、使わないのかを自分で選択する自由もあります。ところが、3つのうちひとつでも制限や強制をされてしまうと、人は「選択の自由が奪われて自由が侵害された」と感じて反発や抵抗が生じてしまうというのです。

これらは反抗期の子どもに多く見られる現象だと思われがちですが、大人も例外ではありません。そしてたとえ相手の指示と自分の予定していた行動が同じであっても、また相手の指示に従うほうがメリットが多かったとしても、心理的リアクタンスは発動すると言われています。

自由を制限されたときに反発心理が働くことを示した実験

ジャック・ブレームによる実験

心理的リアクタンスを検討するためにジャック・ブレームが行った実験は、人々が自由に選択することを制限されたときに、反発心理はどのように働くのか検討することを目的に行われました。

実験に参加した人々に、提示したポスターの中から2枚のポスターを選ぶように求めます。1枚は自由に選んでもらい、もう1枚は研究者が選んだポスターの中から選んでもらいます。次に参加者たちが自由に選んだポスターと、研究者が選んだものから選択したポスターのうち、最終的にどちらか1枚に決めるように求めます。

するとその結果、研究者が選んだポスターから選択した人の割合よりも、自分が自由に選んだポスターを選択する人のほうがより多かったことが観察されました。このことから、ブレームは人は自分の選択や自由に対して価値や重要性を感じていることを示唆したのです。

またブレームは人の自由が侵害されるときの形態について、以下の4つのパターンに分類しました。

  1. 自由の削除…自由の回復が不可能な形で失われてしまった場合

  2. 自由の脅威…自由を維持することが脅かされている場合

  3. 恣意的な自由の侵害…自由を奪おうとする圧力が意図的に向けられている場合

  4. 偶発的な自由の侵害…偶然の出来事によってたまたま自由が侵害された場合

経済における意思決定にも影響する心理的リアクタンス

経済活動における人の意思決定の際にも、心理的リアクタンスは少なからず影響を及ぼします。前述した4パターンの自由や選択権を侵害されるケースが、商品やサービスを選ぶ際にどのように影響するのかをみてみましょう。

自由の削除や脅威、恣意的な自由の侵害

たとえば、広告の中に商品の購入を強制するような表現があったり、選択の自由が制限されたと感じられるような記載があった場合。購入者は自分の自由が侵害されたと感じて反発心を抱くことがあります。

また、購入ボタンは見えやすいところに表示されているのに閉じるボタンは小さくてわかりにくい位置にデザインされている場合などにも、ストレスや抵抗感、反発心などが生じます。

偶発的な自由の侵害

たとえば、チケット購入サイトで長い時間順番待ちをしていざログインしてみたら、欲しいチケットがすべて売り切れてしまっていたというとき。人は購入する自由が侵害されたと感じてやはり反発感情が生じたりします。

心理的リアクタンスは現在ではマーケティング施策のひとつとして、消費者の意思決定や行動を変化させる目的で用いられられる機会が増えています。取り入れる際には、消費者の利益や権利を守る配慮が重要です。適切な情報提供や説明を加えて自由を尊重し、選択肢を提示することで反発心理を回避することができます。

まとめ

自由を制限されたときに反発する心理、心理的リアクタンスについてまとめました。経済の場におけるコミュニケーションにとって、反発や抵抗を招かない工夫は大切です。また自分自身の自由が侵害されたと感じたときにどのような態度をとってしまうくせがあるのか、心理的リアクタンスを通して自分の感情や行動を理解しておくことも大切です。

参考文献

  • 渋谷昌三 (2021).『決定版 面白いほどよくわかる!心理学の本』 西東社

  • 心理的リアクタンス 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』 (最終閲覧日2023年4月15日) 

  • Brehm, J. W. (1966). A theory of psychological reactance, Academic Press. Abstract

  • 深田博己(1996).心理的リアクタンス理論(1) 広島大学教育学部紀要 第一部 心理学,(45),35-44

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