インタビュー

「働きがいのある会社」を受賞、フィンランド発「Reaktor Japan」が実践する、“北欧流”の働き方

最終更新日:2024.09.06
「働きがいのある会社」を受賞、フィンランド発「Reaktor Japan」が実践する、“北欧流”の働き方

2000年にフィンランドで創業したテクノロジーコンサルティングファームReaktor(リアクター)。その日本支社として2014年に誕生したのが、Reaktor Japanです。

同社では、フィンランド本社で導入しているアジャイル開発や自律性の高い組織体制をベースに、日本の商習慣にフィットするようアレンジして日本市場のクライアントへの提供価値最大化を推進すると同時に、社員の「働きがい」を追求。2024年には、世界最大級の意識調査機関であるGreat Place To Work®が発表した「働きがいのある会社」ランキングで10位にランクインしました。

他社と比較してReaktor Japanが高評価だったのは「仕事に行くのが楽しみである」「適切な人材配置」「報酬への納得感」の3点でした。どのように満足度の高い働き方を構築してきたのか。代表の井上 準之介さん、採用担当の川野 ステファニーさんに聞きました。

大手企業との取り組み多数、伴走型で価値を最大化

―― Reaktorでは、adidasFinnairなど大手企業との取り組みが目立ちます。Reaktor Japanにおいても大手企業との取り組みがメインなのですか。

井上:はい、上場企業とユニコーン級の新興企業がメインです。秘密保持の観点から具体的な企業名をあまりお伝えできないのですが、全日空(ANA)さんやダイドードリンコさんとの取り組み事例は公式に発表されています。

全日空との取��り組み

全日空との取り組みでは「ANAアプリ内 ポータルサイトのリニューアル」をサポート(全日空のプレスリリースより)

―― Reaktor Japanの強みを教えてください。

井上:わかりやすい強みは、ユーザーが受け取る価値を最大化する「デリバリー能力」の高さだと考えています。当社では、本拠地のReaktor同様に創業時から「アジャイル開発」を採用しています。Reaktorは業界内でもアジャイル開発の採用時期が早く、よりスピーディーに、より意義のあるソフトウェア開発ができないかと試行錯誤するなかで、小さな単位で実装とテストを繰り返す現在の手法に行き着いた歴史があります。

リリースの際も最初から100点を目指さず、できる限り早く実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックをベースに迅速に改善、または機能追加をおこないます。クライアントに伴走しながらデジタルサービスを一緒に構築することで、圧倒的な価値を生み出します。

とはいえ、同様に高い価値を生み出すコンサルタントやベンダー企業は他にもあるでしょう。実は、本業の「デリバリー能力」以外に当社ならではのユニークな提供価値として、クライアントと共に取り組むプロジェクトの開発過程で起こる「チェンジカルチャー」の働きもあげられます。

クライアントと密に連携して、文化を変えていく作用が生まれるという

クライアントと密に連携して、文化を変えていく作用が生まれるという

―― 「文化を変える」ということですか。

井上:そうですね。当社の特徴として、クライアントのプロジェクトチームと密に連携して開発を進めていきます。アイデアを出すにしても当社内で試行錯誤するのではなく、クライアントのみなさんと一緒にディスカッションを重ねて、ソリューションを生み出します。

そのうえで、「クロスファンクショナルチーム」と言って、多様なスキルや経験、役割を持つメンバーを集めた少数のチームを形成し、自身の役割をまたいで相互に関わり合う体制を取り入れています。アジャイル開発にはこうした体制が適していますし、結果としてレビュー時にありがちな「イメージした仕様と違う」といった関係者の不満を軽減できるためです。

こうした開発体制で6ヵ月、1年を共にすると、私たちが去っても、その企業ではクロスファンクショナルな働き方を取り入れられるようになります。実際に「社内のメンバーの意識や働き方が変わった」という反響をいただくことが多く、当社の一番のモチベーションになっているんです。

全員が「マネジャー」、自律性も仲間意識も高い

―― Reaktor Japanの組織体制を教えてください。

井上:元々は1名から始まった当社ですが、今では31名が所属しています。内訳はコンサルタント職(エンジニア、またはデザイナーを指す)が25名、バックオフィス職が6名です。ダイバーシティな組織で、31名中22名が日本以外の出身です。

―― 2024年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100の小規模部門で10位にランクインされました。「働きがい」を実現するうえで、大事にしている点は?

井上:当社では「マネジャー」が存在せず、これがカルチャーを形成している大きな要素の一つです。社員は、設定したゴールを達成するためのスケジュールや働き方、クライアントとの関係まで自身で管理しています。

チームで動くため何でも自分次第とはいきませんが、チームに支障がなければ、自身の都合に合わせて自宅で働いても、オフィスでも働いても構いません。月間約160時間のトータル勤務時間を大きく逸脱しなければ、日々の勤務時間を調整することも可能です。

川野:こうした自律性は入社段階から求められます。新入社員のオンボーディングにおいても、自身で目標達成に必要なチェックリストを作成し、そのプロセスも自ら考えてもらっています。当社で活躍いただくために、自律性は欠かせない要素です。

一人ひとりが責任と裁量を持ちながら、仲間意識も高いという

一人ひとりが責任と裁量を持ちながら、仲間意識も高いという

―― 信頼関係やリスペクト、仲間意識についても高い評価を得ています。

川野:楽しく働くには、互いを信頼・尊重し、サポートし合う関係性が欠かせません。まず、採用面接の段階で私たちが大事にしている価値観を丁寧にお伝えし、共感してくれた方に入社いただいています。勤務にあたっては、情報の透明性やオープンなコミュニケーションを重視しています。

自律性が高い組織というと「個」で動く印象が強いかもしれませんが、そんなことは全くなくて、互いにサポートし合う意識や体制が強いと思います。当社では「アドバイスプロセス」と言って、自身で考えてトライして、それでも悩んだときは、周囲に相談するための場があります。

Slackの専用チャンネルで悩みを投げかけると、メンバーがアドバイスをくれたり、自分事のように一緒に考えたりしてくれます。自律性をベースに必要に応じて支え合うのが“Reaktorらしさ”かなと。

―― 報酬への納得感も高いとされていますが、どのような給与体制を採用しているのですか。

川野:現在は日本独自の給与体制で運用しています。基本的には採用の際に、現在の社員と比較して能力や職務内容、関連データを照らし合わせ、その方に見合う給与を提示し、必要に応じて昇給をしていました。

ただ、近年は給与レンジの定義が難しくなってきたため、2024年中に新たな給与体制への変更が決定しています。グローバルで展開している「ジョブグレードシステム」に則り、職務の複雑性、責任範囲、会社への影響度に応じて定められたジョブグレードごとに給与額が決定します。社員一人ひとりではなく遂行する職務に給与が結びつくことで、競争力が働き、公平性が高まるだろうと期待しています。

「キッチン」で生まれる活発なコミュニケーション

―― オープンにコミュニケーションができる文化は、どのように育んできたのですか。

井上:イベントなど社員同士が交流できる機会を多く設けており、普段から自分が「楽しい」と思うことをメンバーにも気軽にシェアするようにしています。例えば、フランス出身のメンバーがワインと一緒にフランスの郷土料理を楽しむ食事会を企画したり、登山が趣味のメンバーが登山イベントを企画したり。1年に1度、社員旅行のような宿泊イベントも実施していて、ワークショップやアクティビティを楽しみます。

当社は、5階建てのビルの地下1階、1階、4階、5階にオフィスを構えていて、社内には大小2つのキッチンがあります。キッチンは社内でコミュニティスペース的な機能があり、大きなキッチンではメンバーとの食事会や関係者の方を集めたイベントを頻繁に行っています。小さなキッチンは、コーヒー休憩やカジュアルなランチなどメンバー同士の交流の場となっています。

毎月開催している社内��の食事会にて

毎月開催している社内の食事会にて

登山などのアクティブな企画も

登山などのアクティブな企画も

―― フィンランドでは労働法に「コーヒー休憩」が盛り込まれていて、キッチンやダイニングでの交流が根付いている印象です。そうした雑談から仕事のアイデアが生まれることもあるとか。

川野:スウェーデンにも「FIKA(フィーカ)」と呼ばれる休息の文化があり、コーヒーを飲みながらカジュアルな会話を楽しみます。当社のキッチンはそうした北欧文化が体現されたような場所で、普段の業務で関わりが薄いメンバー同士でも、キッチンでの交流を通じてお互いをよく知ることができます。

―― Reaktorはオランダ、アメリカ、スウェーデン、ポルトガルにもグループ会社があり、約800名の従業員が在籍されています。国境を超えて集まるタイミングはあるのですか。

井上:1年に1度、世界のどこかで集合する企画があります。今年は10月末にチェコのプラハに集合して、全社のメンバーと交流しながら現地滞在を満喫する予定です。こうした企画においても自由度が高く、訪れたいスポットがあれば自身で呼びかけることもできます。アイデアを自由に発言できるのは、Reaktorの風土ですね。

失敗を恐れず実験を重ね、アップデートしていく

―― 今年で創業10年ですね。「働きがい」のある環境を追求する過程で、悩んだこともあったのでしょうか。

井上:徐々にメンバーが増えていったので、理想と現実とのギャップがあった時期もありました。その時の環境における最良を話し合いながら、働き方や文化を築いていきました。

その一例として、「有給休暇」は日本の法令を守りつつ、当社独自の運用体制で運用しています。当初は法令通り入社6ヵ月の経過後に10日間の有給休暇を付与、それ以降は勤続年数に従って日数が増えていく制度を採用していました。でも、3年ほど経過して不都合が生じるようになったんです。

―― 不都合、ですか。

井上:当社にはさまざまな国の出身のメンバーがいるので、有給休暇が付与されるまでは故郷に帰ることができません。付与されても10日間の短い日数では、不十分なメンバーもいました。例えば、ブラジル出身だと日本からの直行便がなく、片道24時間前後かかります。

そこで、勤続年数にかかわらず一律で18日間に設定して実験的に導入したところ、業務に支障が出ることもなく、メンバーの満足度が上がり、みんながハッピーになりました。その後も話し合いを重ねるなかで、現在は一律で20日間の有給休暇としています。

10年間でトライアンドエラーを重ねて、「働きがい」のある環境を構築していった

10年間でトライアンドエラーを重ねて、「働きがい」のある環境を構築していった

―― 常識にとらわれず、就業規則もアップデートしているのですね。

井上:法令は遵守しつつ、私たちの裁量で決められる部分は、みなで話し合って決めています。全てにおいてベースとなる考え方やユニークなポリシーは、本拠地であるフィンランドのReaktorに習っています。そこに日本の商習慣に合うようアレンジを加えて、今にいたります。

川野:「実験」や「試行錯誤」は、Reaktorの文化に根付いたキーワードです。失敗を恐れずに新しいアイデアを積極的に試したり、挑戦したりしながら、働きがいのある環境が育まれてきたと思います。

写真提供:Reaktor Japan

インタビュー
企業文化
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。

https://love-trip-kaori.com/
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