
スクラムとは?
スクラムとは、複雑なプロジェクトを効率的に進めるためのアジャイル開発手法の一つです。短期間のスプリントを中心に構成され、計画からレビューまで一連のプロセスを繰り返し実施します。スクラムの手法は変化に強く柔軟な対応が可能で、チームメンバーの自主性や協働を重視するといった進め方が特徴です。
スクラムを導入することで、実行可能な計画をベースに、定期的なフィードバックを通じて品質の高い成果物を開発・提供することが可能です。またスクラム開発は、工程全体の透明性が高く、プロジェクトの進捗状況が常にチーム全体で共有されるため、問題点の早期発見も可能になります。
スクラムは、その柔軟性と効率性から多くの開発現場で採用されており、デザイナーやエンジニアなど幅広い職種の専門家に適した開発フレームワークといえます。
アジャイルとの関連性
アジャイルとは、変化に迅速に対応 するための柔軟な開発手法を指します。その中心にあるのが「スクラム」です。アジャイルの思考は、計画やプロセスを固定せず、新たな情報や状況の変化に応じて方向性を調整することを重視します。この思考法により、プロジェクトやタスクのフットワークを軽くし、積極的なトライ&エラーを通じて解決策を見出すことが可能です。スクラムはこのアジャイルの精神を体現したフレームワークであり、短期間のスプリントを中心に、チームが連携しながら継続的な改善をおこなうことを促します。
また、アジャイル組織という組織構造では、変化に迅速に対応できるよう、フラットな組織構造が取り入れられます。このような柔軟性が、アジャイル開発とスクラムの強力な相互作用を生みます。したがって、スクラムはアジャイル思考の具体的な実践方法として、とくにソフトウェア開発の現場で広く採用されています。
スクラムの特徴
スクラムは、迅速な製品開発と柔軟なプロジェクト管理を可能にするフレームワークですが、特に以下の要素が特徴です。
短いスプリント
自己組織化チーム
スクラムイベント
ロールと責任
短いスプリント
スプリントとは、スクラム開発プロセスの核心であり、一定の短い期間(通常は1〜4週間)にわたって集中的に作業をおこなう区切りのことです。この期間内で、チームはプロダクトバックログから選出されたアイテムに取り組み、プロダクトのインクリメント(具体的な作成物のひとつ)を完成させることを目指します。
スプリントの始まりにはスプリントプランニングがおこなわれ、終了時にはスプリントレビューとスプリントレトロスペクティブが実施され、次のスプリントへの改善点が議論されます。
この期間内で、チームはプロダクトバックログ(開発チームの作業に優先順位を設定したリスト)から選出されたアイテムをもとに、完成度の高い成果物を生み出すことを目指します。スプリントの終了ごとに製品の一部が完成し、即座にレビューとフィードバックが得られるため、プロジェクトの方向性を迅速に調整できます。また、短期間で繰り返されるスプリントを通じて、プロジェクトの進捗が明確になるため、リスクを最小限に抑えることにもつながります。
自己組織化チーム
スクラム2つ目の特徴が「自己組織化チーム」です。このチームは、みずからの判断でタスクを遂行し、問題解決をおこないます。メンバーは各自の役割や責任を理解し、プロジェクトの目標達成に向けて協力 して取り組む必要があります。このようにして、チームは柔軟性と効率性を持ち合わせ、変化に迅速に対応することが可能になります。
スクラムイベント
スクラムでは、プロジェクト進行を円滑にするために設けられた「スクラムイベント」が重要な役割を果たします。これには、スプリントプランニング・デイリースクラム・スプリントレビュー・スプリントレトロスペクティブが含まれます。
スプリントプランニングでは次のスプリントで達成すべき目標と実行計画が策定され、デイリースクラムでは日々の進捗と課題が共有されます。スプリントの終わりには、スプリントレビューで成果物が評価され、スプリントレトロスペクティブでプロセスの改善点が検討されます。これらのイベントを通じて、チームは常に進捗を確認し、計画を調整し、品質を高められます。
ロールと責任
スクラムではプロジェクトの成功に不可欠な、特定の「ロールと責任」があります。
スプリントごとに高品質な製品を作成する役割を担う開発チームや、スクラムプロセスの導入と維持を支援し、障害の除去やチームの パフォーマンス向上を促進するスクラムマスターが存在します。また、プロダクトのビジョンと利益を最大化することを目的としたプロダクトオーナーなどが機能することで、チームの自己組織化を実現させ、スクラムの価値と原則に沿った効果的な製品開発を促進します。
スクラムの設計基準
スクラムの設計基準は、以下の3本柱にもとづいています。
透明性: 作業が関係者にとって明確であることを保証できる
検査: 定期的に成果物や進捗状況を評価し、望ましくない偏差を早期に発見できる
適応: 問題や変更が認識された際にも迅速に調整し、目標達成の障害を最小限に抑えられる
これらの原則に従うことで、スクラムの柔軟性が実現します。
スクラムの価値基準
スクラムでは、以下の価値基準が掲げられています。
確約: 個々のメンバーとチーム全体が目標達成に向けて全力を尽くす
勇気: 困難に直面しても前進し続ける強さを持つこと
尊敬: チームメンバーそれぞれの貢献を価値あるものと認識すること
公開: 作業の進捗や課題、成功をオープンに共有することで透明性を保証すること
集中: チームがスプリントゴール達成に集中し、外部の干渉や分散を最小限に抑えること
これらの価値基準は、スクラムチームが一致団結し、効果的に協働するための土台となります。
スクラムのチーム体制
スクラムのチーム体制は、特定の役割と責任を持つメンバーで構成されます。
開発者
スクラムマスター
プロダクトオーナー
これらの役割は、互いに補完しながら、製品の価値を最大化するために協力します。
開発者
スクラムチームにおける「開発者」は、プロダクトの開発を担うメンバーです。メンバーの中には、技術的なタスクを遂行するだけでなく、プロダクトの企画や設計にも関与する方もいます。開発者の責任は、コードの書き込みやテストの実施、品質の維持に留まらず、スプリントバックログの項目を適切に実装することです。開発者はチーム内の他の役割、とくにスクラムマスターやプロダクトオーナーと密接に連携し、スムーズなプロジェクト進行とプロダクトの連続的な改善を実現します。
スクラムマスター
スクラムマスターは、スクラムチームがスクラムフレームワークを効果的に適用し、最大限の価値を生み出すため、プロダクトオーナーや開発チームと協力し、プロジェクトの目標達成をサポートします。また、スクラムイベントの進行を保証し、効率的に機能する環境を維持するための支援も業務範囲です。
このポジションは、プロセスの進行役であり、障害の除去やチーム間のコミュニケーション促進などの責任を持ちます。そのため、スクラムマスターは、チーム内での教育者やコーチ、ファシリテーターとして多岐にわたる役割を担うスクラムの成功に不可欠な存在です。
プロダクトオーナー(PO)
プロダクトオーナー(PO)は、プロダクトのビジョンを持ち、その価値と優先順位を決定する重要な役割です。プロダクトオーバーはプロダクトバックログを管理し、どの機能が次に開発されるべきかを決定します。また、ステークホルダーと開発チームの間のコミュニケーションを担い、プロダクトの要件を明確に伝えることで、チームが目標に合致した成果物を生み出せるよう導きます。
プロダクトオーナーは、プロダクトの成功に責任を持ち、利用者や市場のニーズに応える製品を提供することを目指します。スクラムチームが効率的に働き、価値の高いプロダクトを迅速に市場に投入できるようにするために、プロダクトオーナーの存在は不可欠です。
また、プロダクト開発において、POと似た役職でPdMがあります。PdMについては以下の記事で詳しく解説しています。
スクラムのイベント
スクラム開発では、チームの進捗と成果を明確にするため、以下のイベントを通して進捗させます。
スプリントプランニング
デイリースクラム
スプリントレビュー
スプリントレトロスペクティブ
スプリントプランニング
スプリントプランニングは、スプリントの始まりにおこなわれる重要なイベントで、チームが次のスプリント期間で達成する目標と、それを達成するために必要な作業項目を決定します。
このセッションでは、プロダクトオーナーがプロダクトバックログから優先度の高いアイテムを提示し、チームはそれらのアイテムをどのように実装するかを計画します。このプロセスを通じて、チームはスプリントゴールに合意し、そのゴール達成に向けて必要なタスクをスプリントバックログにリストアップします。
デイリースクラム
デイリースクラムは、スクラムチームが毎日短時間集まり、プロジェクトの進捗状況を共有する会議です。このミーティングでは、前日の成果、その日の目標、進捗を妨げる可能性のある問題点について話し合われます。
デイリースクラムは、チームのコミュニケーションを促進し、問題を早期に特定して解決することを目的としています。また、メンバー間の透明性を高め、スプリントの目標達成に向けた共通の理解を深める効果的な方法です。
スプリントレビュー
スプリントレビューはスプリントの終わりにおこなわれる会議で、チームがその期間内に成し遂げたことをステークホルダーに提示する場です。このセッションでは、完成した製品の機能や改善点を説明し、フィードバックを収集します。このフィードバックは、プロダクトバックログの調整や今後のスプリント計画に反映される可能性があります。
スプリントレビューは、プロジェクトの進行状況を確認し、製品がユーザーのニーズに適しているかどうかを検証する重要な機会を提供します。
スプリントレトロスペクティブ
スプリントレトロスペクティブは、スプリントの終了時に実施される会議で、チームが過去のスプリントを振り返り、今後の改善点を議論します。このセッションでは、何がうまくいったか、どのような課題があったか、そして次のスプリントでどのような改善ができるかについてオープンなコミュニケーションがおこなわれます。
レトロスペクティブは、チ ームが自己反省し、継続的な改善を促すプロセスを確立することを目的としています。
デザイナーもスクラム開発に関わるべき?
「スクラム開発」と聞くと、エンジニアやプロダクトオーナーなどと関連する開発手法のように感じる方もいるかもしれません。しかし、デザイナーがスクラム開発に参画するケースもあり、適切な場面で介入することで多くのメリットをもたらします。
たとえば、プロダクトオーナーがバックログを構築する初期段階からデザイナーが参加すると、プロトタイプの作成を通じてアイデアを具体化できるため、プロダクトのビジョンが明確になります。また、デザイン思考ワークショップなどを通じて、チーム全体でユーザー中心のアプローチを採用し、よりユーザーフレンドリーなプロダクト開発が実現します。
このようなプロセスは、プロダクトのユーザビリティとエンゲージメントの向上に直結し、結果的にビジネス価値の向上にも寄与します。そのため、デザイナーがスクラム開発に関わることは、プロダクト開発プロセス全体の効率性と効果性の向上にも価値の高いことと言えるでしょう。
ス クラムを網羅的に学べる書籍4選
ここでは、スクラムについて網羅的に学べる書籍を紹介します。より知識を深めたい方は、参考にしてみてください。
スクラムガイド
『スクラムガイド』は、スクラムを発明したKen Schwaber氏とJeff Sutherland氏によって作成された公式ガイドとして、スクラムフレームワークを理解し実践するための基本的なマニュアルです。
18ページとボリュームはコンパクトなPDFですが、スクラムの理論や価値観、役割やイベントなどについて明確に説明しています。スクラムの実践において絶対的な基準とされるこの文書は、スクラムの実践者だけでなく、スクラムを学び始めたばかりの方にとっても、そのプロセスと原則を深く理解するための重要な情報になります。
SCRUM BOOT CAMP THE BOOK
SCRUM BOOT CAMP THE BOOKは、スクラムをこれから始める人や、導入してみたがうまくいかないと感じている方に向けて作成された書籍です。実際の開発現場を題材に、スクラムのプラクティスをわかりやすく解説しています。
理論だけでなく実践に重点を置いた内容は、スクラムの基本から具体的な適用方法までをカバーしており、自身のプロジェクトに活かすための知識が提供されています。スクラムを 学び、実践する上で欠かせない一冊と言えるでしょう。
SCRUMMASTER THE BOOK
SCRUMMASTER THE BOOKは、スクラムマスターが直面する日々の課題に対し、実践的なアドバイスを提供する一冊です。スクラムマスターとしての役割は、プロジェクトチームや組織において非常に重要でありながら、 その役割の具体的な内容や取り組むべきタスクはしばしば誤解されがちです。この書籍は、スクラムマスターがチームをサポートし、促進し、指導するために必要なスキルや知識、そしてマインドセットについて深く掘り下げられています。スクラムマスターだけでなく、アジャイル開発に関わる人にとって有益な内容となっています。
エッセンシャル スクラム
エッセンシャル スクラムは、アジャイル開発に携わるすべての人に向けた包括的な実践ガイドです。スクラムの本質を深く理解していることが、その適用の成功には不可欠であるとされているため、上級者向けの一冊と言えます。この書籍では、スクラムの基本から応用までを網羅し、バックログ管理やデイリースクラムなどの手法、スクラムマスターやプロダクトオーナーなどの役割について詳しく解説しています。
スクラムを実践する上で遭遇するさまざまなシナリオに対応するための知識が提供されているため、スクラム開発を成功させたいと考える方は必見の書籍です。
スクラムマスターにオススメの資格
スクラムマスターを目指す方々にとって、適切な資格はそのキャリアパスを大きく前進させられます。資格はスクラムの原則や理論に関する深い理解を証明できるツールにもなります。また、実践で活用できる能力を高めるためにも、資格の勉強を通して学ぶ過程も重要なステップです。
ここではスクラムマスターとしてのスキルを認定し、プロフェッショナルとしての価値を高めるために推奨される資格を紹介します。
スクラムマスターは必要か?
スクラムマスターの資格を紹介する前に、一度スクラムマスターの価値について明確にしておく必要があります。なぜならば、一部では「スクラムマスターは不要ではないか」といった見解も存在するからです。このような見解は、プロダクトバックログの策定や問題解決能力が高ければ、他ロールだけでも円滑に進行させられる のではないか、といった考えから生じているものです。
しかし、スクラムマスターの存在はチームの調整役として、またスプリントの進行をサポートすることで開発プロセスの効率化に貢献します。とくに、スプリントレトロスペクティブでは、スクラムマスターが中心となって活発な意見交換を促し、チーム内のコミュニケーションを改善するなど、スクラムマスターの役割はプロジェクトの成功において重要な位置を占めています。
スクラムマスターがいることで、チームはよりいっそうの信頼関係を築き、開発の質とスピードの向上を実現できるのです。
認定スクラムマスター(Certified ScrumMaster)
『認定スクラムマスター(CSM)』は、Scrum Alliance®によって提供される、スクラムフレームワークおよびその適用方法に関する深い知識と理解 を証明する資格です。認定スクラムマスターを取得することは、スクラムの原則や実践方法を学び、チームのスクラムマスターとして効果的に機能するための能力を身につけることを意味します。
受講者は、スクラムの基本的な概念や役割、イベントやアーティファクトなどについて学び、スクラムチームのパフォーマンスを向上させるための実践的な技術を習得します。スクラムを実践するチームにおいて、コミュニケーションの向上、プロジェクトの進捗管理、問題解決などをサポートするための重要な資格とされています。
アドバンスド認定スクラムマスター(Advanced Certified ScrumMaster)
『アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)』は、基本的なスクラムマスターの知識と経験をさらに発展させることを目的とした上位資格です。この資 格を取得するには、まず認定スクラムマスター(CSM)の資格を保持していること、そしてスクラムマスターとしての実務経験が12か月以上あることが必要です。
A-CSMの認定プログラムでは、高度なファシリテーション技術、チームダイナミクスの理解、スクラムの実践を通じた変革リーダーシップなど、スクラムマスターとしてより高度なスキルが求められます。A-CSMを取得することは、スクラムチームの効果を最大化し、スクラム開発における高いリーダーシップを発揮する能力を証明することになります。
認定スクラムプロフェッショナル スクラムマスター(Certified Scrum Professional)
『認定スクラムプロフェッショナル スクラムマスター(CSP-SM)』は、スクラムマスターとし ての高度なスキルと実務経験を持つプロフェッショナルに授与される資格です。この資格を取得するためには、まずアドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)の資格を有効に保持していること、さらにスクラムマスターとして24か月以上の実務経験を積んでいることが必要条件とされます。
CSP-SMは、スクラムの実践と理論において深い理解を有し、複雑なプロジェクト環境でもスクラムチームをリードする能力を持つことを証明するものです。この資格を通じて、スクラムマスターは自己の専門性をさらに高め、組織内外でのリーダーシップと影響力を拡大できます。
まとめ
スクラムは、迅速な製品開発と柔軟なプロジェクト管理を可能にするフレームワークです。そのため、変化の大きい市場に投入するプロダクトを開発する場合に、効果を発揮します。この記事では、スクラムの基本概念から始まり、実践に役立つ書籍、さらにスクラムマスターに推奨される資格まで、スクラム開発に関する幅広い情報を提供しました。
スクラムを実践する上での価値観・役割・イベントなど、スクラム開発の全体像を把握し、より効果的なチーム運営やプロジェクト管理をおこなうための一助になれば幸いです。