
ヴェブレン効果とは?高価なものに需要が集まる理由
ヴェブレン効果とは、見せびらかすために高価なものを欲しがるといった心理効果です。自己顕示欲を満たすために高価なものを購入して見せびらかすことから、「見せびらかし消費」や「顕示的消費」とも呼ばれます。この効果は所得が高い人ほど働きやすく、高い商品ほど需要が増すのが特徴です。
例えば、飛行機のファーストクラスやブラックカードなどは価値と希少性が高いため、ヴェブレン効果が働きやすいです。優先搭乗やラウンジなどの特典があることで、他の人たちと差別化することができ、自分のステータスの高さを強調できるからです。
他にも、高級車やブランド物のバッグなども、上記と同様の理由でヴェブレン効果が働きやすくなり、消費者の「欲しい」という欲求をくすぐるでしょう。
ヴェブレン効果の由来
ヴェブレン効果の由来は、アメリカの経済学者であるソースティン・ヴェブレンの著書『有閑階級の理論』の中にあります。
彼は著書の中で、財産を持っている人たちが「価格の高いものを購入して見せびらかす 現象」を「顕示的消費」と書き、これにちなんで、ヴェブレン効果と名付けられました。ヴェブレン効果が実際に提唱されたのは、アメリカの経済学者であるハーヴェイ・ラベインシュタインの1950年の論文です。
ヴェブレン効果の例
ヴェブレン効果への理解を深めるために、2つの具体的な例を紹介します。
ハイブランド製品の購入
消費者がハイブランドを購入したがる現象にはヴェブレン効果が影響しています。ブランド品の中でも「ハイブランド」と呼ばれているようなブランドの製品は、価格が高く誰でも気軽に買えるというようなものではないですよね。「価格の高さ」と「希少性(所有している人が少ない)」などの特徴を持つハイブランド製品を購入して見せびらかすことで、自己承認欲求が満たそうとする消費者の行動が、まさにヴェブレン効果によるものと言えます。
機能性の高い日本車よりも売り上げが伸びた高級車
ヴェブレン効果が働いた例として、機能性の高い日本車よりも高級車の売り上げが伸びた例が挙げられます。例えば、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」(高級車)とトヨタの「プリウス」が比較された2013年の朝日新聞の記事では、燃費・価格・性能どれもプリウスの方が勝っているにも関わらず、売り上げが伸びているのは「ゴルフ」という現象が紹介されています。ここでも、ヴェブレン効果が働いていることがよく分かります。
ヴェブレン効果と似ている心理効果
ヴェブレン効果には、似ている心理効果が2つあります。どちらの効果もハーヴェイ・ラベインシュタインの1950年の論文で提唱されたものですが、それぞれ意味は異なります。
希少性に魅力を感じるスノッブ効果
スノッブ効果とは、たくさんの人が持っていないものに魅力を感じる心理効果です。たくさんの人が持っているものには、「他の人と同じものは嫌だ」という心理になり購買意欲がなくなってしまいます。
スノッブ効果は、簡単に手に入れられるものよりも限定品や希少性のあるものに魅力を感じる心理により起こる現象です。数量限定や期間限定と言われると、ついつい買いたくなりませんか?スノッブ効果については以下の記事でも紹介しています。
スノッブ効果と逆のバンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、多くの人が選んだものを選択する人が増える心理効果です。スノッブ効果とは逆の意味を持ち、「社会的証明効果」と呼ばれています。例えば、大手クラウドソーシングサイト「クラウドワークス」のWebサイトを見てみましょう。
https://crowdworks.jp/
「国内シェア・取引額No.1」「ワーカー数No.1」と書かれており、多くの人が利用していることが分かると、安心して利用できると感じませんか?以上のように、多数の人が利用しているからこそ選択される現象のことを、バンドワゴン効果と言います。
ヴェブレン効果は「承認欲求」を満たすための消費
ヴェブレン効果には人間の「承認欲求」が深く関わっています。マズロー欲求5段階説をご存知でしょうか?承認欲求はマズロー欲求5段階説の1つです。
マズロー欲求段階説では、下段の欲求になるほど生きるために必要な欲求となっており、人はこのような欲求を優先的に満たそうとします。そして、下段の欲求が満たされると上段の欲求を求めるようになります。
マズロー欲求段階説から推察すると、「承認欲求」を満たそうとする際に働くヴェブレン効果は、主に承認欲求より下段の欲求が満たされている人に働きやすい効果であると言えます。逆に、桁違いのお金持ちではなくても、上記の条件が満たされていればヴェブレン効果は働きやすいとも言えます。
ヴェブレン効果は所得格差を広げる?
『ヴェブレン効果、所得格差と労働供給』の研究では、ヴェブレン効果があることで、低所得者と高所得者の所得格差が、ますます広がると言及されています。
この研究によると、低所得者はヴェブレン効果の影響を受けると高価なものを買うために労働時間を伸ばして収入を増やそうとする傾向があるとのことです。そして、経済が急に悪化し、生産性が急激に下がる「負の生産性ショック」が発生すると、低所得者の賃金が下がります。そして、このような負の生産性ショックが起きると、低所得者はさらに働く時間を増やすのです。これにより労働供給が伸びます。
低所得者が働く時間を増やすと、高所得者の限界生産性(一人ひとりがどれだけ価値を生み出せるか)が上がり、その結果、高所得者の給料も上がることにつながります。ヴェブレン効果が影響していると、低所得者はそれでも高 価な商品を買い続けようとするため、結果として所得格差が広がる可能性があるというわけです。
ヴェブレン効果をマーケティングに活用する際の5つのポイント
ヴェブレン効果をマーケティングに活用する際のポイントは、以下の通りです。
価格をあえて高くする
商品は高級に見えるデザインに
高級なイメージでブランディングする
「限定商品」として売り出す
合わせ技で売る
下記で詳しく 説明します。
価格をあえて高くする
1つ目は、単純に商品やサービスの価格を高くすることです。一般人が手に入れるのが難しい「高い価格」であることが、消費者の承認欲求を満たし、ヴェブレン効果が働きやすくなります。ただし、なぜその商品・サービスの価格が高いのかといった理由の説明は必要です。
商品を高級に見えるよう工夫する
2つ目は、商品のデザインを高級に見えるようにすることです。高級感を演出できれば、消費者の顕示欲を刺激できヴェブレン効果が働きやすくなります。
具体的には、
商品の素材を硬めに作る
落ち着いた色味にする
金・銀などの装飾を施す
などの方法で、高級感を演出できるでしょう。
高級なイメージでブランディングする
3つ目は、自社の商品やサービスを高級なイメージでブランディングすることです。
ヴェブレン効果を働かせるためには、対象の商品が
対象の商品が社会的に広く認められているか
価格が高く希少価値があるか
なども大切なポイントとなります。そのため、自社の商品やサービスの「ブランド」を確立し、購入者に「このブランドだから手に入れたい」と思わせることが大切です。
「限定商品」として売り出す
4つ目は、「限定商品」として売り出すことです。商品に希少価値があり、価格が高いほど購入しにくいため、消費者の顕示欲を刺激できます。そのため、価格が高い商品が「限定」であることをアピールすると、ヴェブレン効果が働きやすくなります。
合わせ技で売る
5つ目は、プレミアム商品を3つの効果の合わせ技を使って売る方法です。
3つの効果は以下の通りです。
ヴェブレン効果
スノッブ効果
バンドワゴン効果
これら3つの効果が作用したと考えられる、アメリカで人気のソーセージ「ジョンソンヴィル」の日本における事例をご紹介します。
ジョンソンヴィルは、サイズも大きめで肉の旨みがしっかりある、1本で大満足のソーセージです。しかしその一方で、1パッケージは500〜600円と値段が高く、一般的なソーセージを買う感覚としては、少し手を出しにくい印象でした。
当時の社会的背景もあり、当時のジョンソンヴィルの流通状態は順調とは言えない状況にありました。そこで、ソーセージを買う人たちの行動に注目したところ、多くの人が朝食やお弁当にソーセージを使っていて、実はあまり味にはあまり期待をしていないことがわかりました。
それで、ジョンソンヴィルはソーセージの位置づけを変えることを決めました。その過程の中で、偶然にもジョンソンヴィルのソーセージがなかなか手に入らない状況が「希少性」につながっていることがわかりました。これがスノッブ効果です。
さらに、ジョンソンヴィルは宣伝によって「高級感」を演出しました。高感度な主婦向けの雑誌にだけ情報を絞り、その雑誌の読者だけが知っている状況を作り出すことで、商品が一部で流行しているという印象を発信したのです。これがバンドワゴン効果です。
その後、大手チェーン店でジョンソンヴィルのソーセージが扱われるようになったタイミングでCMが作成されました。CMは、「奥様たちのホームパーティ」がテーマで、高級感あふれるシャンパンやこだわりのテーブルウェアと一緒にジョンソンヴィルのソーセージが登場します。
自分たちの楽しい時間に合わせてソーセージを用意する様子が伝わるCMが放送されると、関東圏での商品の出荷率が20%もアップし、売り上げも拡大しました。
まとめ
今回は、希少性や高級感が需要につながるというヴェブレン効果についてご紹介しました。ヴェブレン効果が作用しやすいような商品を扱う場合には、今回紹介したような心理効果の特徴を参考にしてみても良いかもしれません。
参考文献
なぜ日本車よりも、高価な外国車が売れるのか (最終閲覧日2023年12月11日)
ヴェブレン効果、所得格差と労働供給 (最終閲覧日2023年12月11日)
ADEX SYNRI ラボ (2018). マーケティングの本質: 「心理」に関する「真理」