心理学

未完了のタスクが人の脳にもたらすツァイガルニク効果とは?

最終更新日:2024.02.11編集部
未完了のタスクが人の脳にもたらすツァイガルニク効果とは?

ツァイガルニク効果の心理学的な背景 

ツァイガルニク効果とは?

ツァイガルニク効果(Zeigarnik effect)とは、未完了のタスクが人の脳に強い関心を引き起こす現象のことをさします。人は自分が達成できた事柄より、達成できなかった事柄や中断した事柄のほうが記憶に残りやすい傾向をもっています。またあるタスクを完了する前にやめてしまった場合、タスクが頭の中に残り続けてそれを完了することが強く求められるというのです。この現象は発見した心理学者の名前にちなんで、ツァイガルニック効果、ゼイガルニク効果、ゼイガルニック効果と呼ばれています。

ツァイガルニク効果は、1927年にソ連の心理学者であり精神科医であり、病理心理学の専門家であるブリューマ・ゼイガルニクが、ドイツのゲシュタルト派の心理学者クルト・レヴィンの指導のもと発見しました。ツァイガルニクはレヴィンの「人が目標に向けて行動するときは緊張感が持続するが、目標が達成されると緊張感は解消される」という論にもとづき、「達成されなかった未完了の課題の記憶は、完了した課題の記憶に比べて想起されやすい」事実を実験的に示したのです。

ツァイガルニクが未完了の課題がもたらす影響に着目したのは、自身の経験がきっかけでした。彼女はレストランで働く人々が自分が受けた注文内容を記憶に留めていることに気づきを得て、次のような実験を行いました。

被験者たちに複数のタスクに取り組んでもらい、それらのタスクの一部は完了させ、一部はタスクの完了前に作業を中断するよう求めました。その後、被験者たちにタスクの内容を思い出してもらうテストを実施したところ、未完了のタスクは完了したタスクと比べて、より正確に思い出されることが観察されたのです。

ツァイガルニクはさらに難易度の異なる複数のパズルを用いた実験を行い、被験者たちが自分が完成させたパズルよりも未完成のパズルのほうにより強い関心をもち、より多くの情報を覚えていて、パズルを完成させたい欲求を抱いていることを確認しました。これらの結果から、人が課題を完了させると関心や行動の焦点は課題から解放され、未完了の課題については関心と行動の焦点を当て続けることも明らかになりました。

脳は未完了の課題を優先的に処理したい

ツァイガルニク効果を引き起こす脳のメカニズム

ツァイガルニクが発見した、未完了課題が人に及ぼす影響の検討はその後、多くの学者たちによって認知プロセスの観点からの研究が蓄積されました。中でも代表的な論文のひとつは、アメリカの心理学者クリストファー・アンダーソンらによる認知プロセス理論にもとづくツァイガルニク効果の研究です。

実験では被験者に単語を用いた課題を与えて、一部は完了させ、一部は未完了のまま中断させたのちに、それらの単語に関する質問に答えるように求めました。その結果、未完了の単語に関する質問に対しては、完了した単語よりもより高い判断速度と正確性が示されたのです。

アンダーソンは人の認知過程をモデル化する際に、オープンループとクローズドループのどちらかのプロセスを使うことも定義しました。そして人が未完了のタスクを優先的に処理したくなる欲求は、人間の認知プロセスで設計されていることを指摘したのです。具体的には、未完了のタスクは外界からの情報を受け取って脳内でそれを処理し、最終的に行動を起こすオープンループとして扱われて解決策を求めるプロセスが常に進行するため、関連する情報がより強く記憶されることを示唆しました。

人が未完了のタスクに取り組むことで達成感や満足感を得ることができる理由としては、解決策が得られることによって多くの達成感を得ることができるため、完了させることに強い欲求を感じると結論づけられました。

一方で完了したタスクは目標に向けて微調整を行うクローズドループの状態をつくり出すため、思考プロセスを完了させるために関心や行動から意識を解放させるのではないかと分析しました。このような認知プロセスの違いが、未完了のタスクに関する知覚や判断に影響を与えることが示唆されたのです。

未完了のタスクがユーザーを刺激する

ツァイガルニク効果を用いたデザイン

ツァイガルニクやアンダーソンらの研究は、今日では広告やマーケティング、デザインなど幅広い分野で応用され取り入れられています。

たとえばサイトデザインにおける進行状況バーなどはツァイガルニク効果の応用例として知られています。タスクの完了状態を視覚的に把握することで、未完了のタスクを早く達成しなければという意欲を高めたり、タスクを完了させてゴールに到達した満足感や達成感をもたらしてくれるからです。

また、ユーザーが未完了のタスクを自分でリスト化できるタスクリストは完了感を高めるだけでなく、タスク管理を容易にすることで取り組む意欲を向上させて満足感をもたらします。

見るべき新しい情報があることを示す未読マークは、メールを読むことを促します。未読マークが画面に並んでいるのを見ると誰でも「早く開いて既読にしたい」感情が高まるのはツァイガルニク効果が影響しているからです。

まとめ

未完了のタスクが人の脳に強い関心を引き起こす、ツァイガルニク効果についてまとめました。ツァイガルニク効果は課題やタスク達成のための動機づけを促す効果が期待できます。負荷にならないよう、必要な箇所にとどめるさじかげんが大切になってくるでしょう。

参考文献

  • Zeigarnik, B. (1927). Das Behalten erledigter und unerledigter Handlungen [The retention of completed and uncompleted actions]. Psychologische Forschung, 9(1), 1-85.

  • 鹿取廣人(編)・杉本敏夫(編)・鳥居修晃(編)・河内十郎(編)(2020).『心理学 第5版 補訂版』 東京大学出版

  • ツァイガルニク効果 『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』 (最終閲覧日2023年4月15日) 

  • Anderson, C. J., Brion, S., Moore, D. A., & Kennedy, J. A. (2012). The Experience of Thinking: How the Fluency of Mental Processes Influences Perceptions and Judgments Journal of Personality and Social Psychology, 103(6), 933-942.

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