
私たちは日々、さまざまなプロダクトやサービスを利用しています。そして多くのデザイナーや開発者は、ユーザーの「ニーズ」や「ペインポイント(痛み・不満)」を発見し、解消することを目指しています。
ところが、ユーザーの要求は必ずしも単純ではありません。 たとえばAという機能が欲しい一方で、Bという条件も大事にしたい。コストを抑えたいが品質は妥協したくない。時間をかけて比較検討したいが、早く決めて楽になりたい ―。
このような相反する欲求や価値観が衝突する状態が、ユーザー体験の複雑性として存在します。
学生時代にWebデザイン会社を経験後、新卒で行政機関に勤務。ワークスアプリケーションズ、TERASSなどのITベンチャー、自身のデザイン会社などを通じ、プロダクトデザイン、ブランディング、開発、PMなどを経験したのち、株式会社マイベストでデザイン責任者としてデザイン組織、デザインリサーチ、リブランディング、アプリ開発などを推進。グロービス経営大学院卒業。 現在はスキマバイトサービスの運営企業にてプロダクトデザインマネージャー。
ユーザーが直面するジレンマ
ここで、ジレンマとはなにかについて考えてみます。
ジレンマは、2つの相反する選択肢の板挟みになる状況をさします。より分解すると、次のような主観的かつ複雑な状況と位置づけられます。
同時に選べない二者択一の状況
選択肢によって異なる感情がおきる状況
選択肢に関連して衝突する複数の価値観
注目すべきことは、ジレンマをとりまく選択肢自体だけでなく、個人の感情や複数の価値観がジレンマの複雑さを構成している点です。ジレンマは、事柄の大小を問わず、誰の中にも生じうるものです。
たとえば旅行予約サイトを使うとき、ユーザーは「少しでも費用を抑えたい」と思いつつ、「旅先では快適なホテルに泊まりたいし、ちょっと贅沢もしてみたい」と感じることがあります。
このような矛盾したインセンティブは一つの決断の中にいくつも浮かび上がります。
「安く済ませたい」 vs. 「妥協しない旅にしたい」
「のんびり過ごしたい」 vs. 「新しい発見がしたい」
「短時間で予約を終えたい」 vs. 「たくさんのプランを比較してベストを探したい」
「自由度を高めたい」 vs. 「トラブルを避けるため計画をしっかり立てたい」
そして、こうした葛藤は旅行に限らず日常のさまざまな場面で発生します。
また、ジレンマは必ずしもはっきりと自覚されるとは限りません。
ユーザーが直感的にもっている志向には、実は反対側の選択肢が存在することもジレンマ構造の一つと捉えることができます。さらには、目に見える選択肢だけではなく、何かをしないこと(不作為)も選択肢の一つであることに注意が必要です。
このようなジレンマ構造の発見