インタビュー

Z世代がハマる「Jiffcy」の開発者に聞く ― コアなユーザー体験を突き詰めLINEにない価値を創出

最終更新日:2025.01.14
Z世代がハマる「Jiffcy」の開発者に聞く ― コアなユーザー体験を突き詰めLINEにない価値を創出

2021年末に誕生したテキスト通話アプリ「Jiffcy(ジフシー)」の注目度が上昇している。電話のように相手を呼び出した後、リアルタイムでテキストのやり取りをするというシンプルな機能性だが、「これまでにない体験ができる」としてα・Z世代を中心に利用者が増えているのだ。

2024年10月にはロゴ・アイコン・アプリデザインを刷新、かつ機能性をシンプルに絞り込むリブランディングを実施。2024年11月1日発売の「日経トレンディ2024年12月号」では、「2025年ヒット予測ベスト30」で10位にランクインしている。

同アプリを開発したのは2018年設立のスタートアップ「穴熊」で、 代表取締役CEO 西村成城氏が大学2年生の時に創業した。Jiffcyを開発した狙い、UX・UIのこだわりを西村氏に聞いた。

応答率75%、既読・未読スルーのないテキスト通話ができる

通話感覚のテキストコミュニケーションを提供するJiffcyは、実際に使ってみると、LINEをはじめとした従来のメッセージアプリとは感覚が異なることがわかる。その利用ステップは以下のとおりだ。

  1. アプリを開く

  2. 会話したい相手を選んで発信する

  3. 相手が応答したらテキストでやり取りをする

Jiffcyの利用ステップは非常にシンプルだ

Jiffcyの利用ステップは非常にシンプルだ

相手が応答すると画面にトークルームが現れ、テキストや画像でのコミュニケーションが可能となる。応答しなかった場合はトークルームが出現せず、やり取りができない。つまり、LINEでありがちな既読・未読スルーが起こらない仕様だ。

動画を見るとわかるように、過去の会話が画面上に表示されないため、今この瞬間の会話に集中しやすい(会話の終了後はテキスト通話の履歴が閲覧できる)。口頭のコミュニケーションをそのままテキストに置き換えたようなイメージで、打ち間違いさえも相手に見せるのは斬新だ。

「相手が打っているテキストが一文字ずつ表示される仕様は、没入感を高めたいためです。相手が応答したらトークルームが出現し、抜けたらトークルームが消滅する。そうしたUXに加えて、文字がリアルタイムで表示されることで、より通話の感覚に近づくと考えました」

「打ち込んでいる瞬間」が見えると相手の伝えたいことを予想できるので、スピーディーな会話になりやすい

「打ち込んでいる瞬間」が見えると相手の伝えたいことを予想できるので、スピーディーな会話になりやすい

現状は1対1のテキスト通話のみとなり、応答率は約75%。西村氏いわく「電話よりも高い」そうだが、その理由は電話にありがちな「取り逃がし」が減るためだと考えられる。

「電車やバスでの移動中や周囲に人がいるなど声を出しづらい場所にいるとき、あるいは朝起きたばかりで声が出しづらいなど、電話が難しいシチュエーションは意外とあると思います。そうしたときでもテキストなら対応できることは多いですよね」

従来の感覚だと、緊急性の低いコミュニケーション=メッセージ、緊急性の高いコミュニケーション=電話と棲み分けるのが一般的だった。ここに対して、緊急性が高くても「電話」と「テキスト通話」の2パターンを選べるようにしたのがJiffcyというわけだ。

応答率の高さに加えて、1回の平均利用時間も電話よりかなり長いという。具体的な数値の名言は避けつつ「通話の約4倍ほど使われている」と西村氏は明かした。

利用者は若年層が中心、女性が約7割

Jiffcyのプロトタイプを公開したのは2021年初頭で、ちょうどコロナ禍で友人・知人と対面で会いづらいタイミングだった。テキスト通話というコンセプトは、西村氏の原体験にもとづいて生まれたストーリーというのも興味深い。

「2018年の設立後、さまざまなサービスを開発したものの思うような結果が出ず、精神的に落ち込んで引きこもっていたんです。友達と話をしたいけれど電話をする元気はなくて、テキストでリアルタイムで話せたらなと。LINEで『今何してる?』などと送っても即返信が返ってくることが少なく、リアルタイムでの会話は難しかったんです」

Jiffcyを開発した穴熊の代表取締役CEO 西村成城氏

Jiffcyを開発した穴熊の代表取締役CEO 西村成城氏

自分のようなニーズを持つ人は案外いるのではないか。そう考えた西村氏はJiffcyの開発に着手。試行錯誤の末に、現在の「テキスト通話」のUX・UIに行き着いた。利用者を増やすためにJiffcyでのやり取りをTikTokで投稿してみると反響が良く、徐々に若年層に支持が広がっていった。

さらに、国外にもアピールするためにアメリカをターゲットに英語でも投稿。そちらも狙いどおり拡散され、若年層を徐々に取り込めている。現在は日本に次いで利用者が多いのがアメリカで、さらに韓国、フランスと続く。

利用者の中心は10代〜20代のα・Z世代で、約7割が女性となる。女性同士と比較すると男性同士でメッセージを頻繁に送り合うことが少ないためか、女性×女性、女性×男性という組み合わせでの利用が多いようだ。

「現在は誰でも利用可能ですが、2024年7月までは招待制としていました。Jiffcyは友人や恋人、家族など仲のいい人同士でのコミュニケーションを想定しているためです。実際にそうした利用が広がり、親しい人同士で使うツールとしてのイメージが定着したことから、現在は招待制を廃止しています」

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デザインも機能性も“シンプル”にリブランディングした理由

2024年10月に実施したリブランディングでは、ブランドコンセプトを「Creating Our World」と定め、ロゴ・アイコン・アプリデザインを一新、機能性もシンプルに絞り込んだ。

水色×ピンクの鮮やかなアイコンを黒い背景のシンプルなデザインに

水色×ピンクの鮮やかなアイコンを黒い背景のシンプルなデザインに

リブランディング前の利用イメージ

リブランディング前の利用イメージ

リブランディング後の利用イメージ

リブランディング後の利用イメージ

  • リブランディングでは、以下のとおり機能のアップデートも実施した。

  • 招待制を廃止

  • グループ通話機能を廃止

  • 発信のスタイルを「電話」と「通知」の2スタイルから「電話」のみにした

  • 通話履歴を閲覧可能にした

「リブランディングは、海外展開を本格化したい狙いからです。誰もが使いやすいシンプルなアイコンを採用し、直感的なUXを追求して国や言語に関係なくテキスト通話を体験できるUIとしました。通話履歴を残す仕様は、安全性を高めるためです」

機能のアップデートにおいて最も悩んだのが、発信スタイルを「電話」のみに絞ったことだったという。これは電話のように呼び出して相手が応じたらやり取りを開始する現在のスタイルを指す。対して「通知」は、相手に通知が届いて相手が応じるとやり取りが始まる、より気軽な発信スタイルだ。

「気軽な選択肢を残しておくべきでは、という考えもあったのですが、ユーザーヒアリングを重ねていくと、ヘビーユーザーは『電話』の発信ばかりを使っているとわかりました。一方で、ライトユーザーは『通知』を好んでいて。それならばと、リブランディングのタイミングで『電話』の発信のみに絞ることにしました」

その真意として、電話の発信を利用する人には明確にコミュニケーションを取りたい意思があり、通知の発信をする人には、「暇だから」といったようなエンタメに近い目的があったという。もともとのコンセプトや体験価値を突き詰めた結果、電話の発信のみに限定する判断をしたそうだ。

シンプルなアイコンやデザインは、特にアメリカの学生に好評だという

シンプルなアイコンやデザインは、特にアメリカの学生に好評だという

リブランディング後は、30代以上のユーザーが増加したほか、海外のユーザーも増加傾向にあるという。いずれはスタンプの販売や広告などのマネタイズを想定しているが、しばらくは世界各国のユーザーを伸ばすことに注力する戦略だ。

「Jiffcyは『電話の進化ツール』を目指しています。メッセージのやり取りはポケベル、メール、SNSとラクなほうに進化してきましたが、電話に関しては取り残されているなと。緊急性が高い場合に発話を強要するのでなく、テキストでのコミュニケーションも選択肢になるよう進化させていきたいですね」

Jiffcyならではのリアルタイムのやり取りは、従来のツールでは得られなかった体験価値として、難聴を患う人などにも評価されているという。2025年は、一段と注目度が高まりそうだ。

写真提供:穴熊

インタビュー
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。

https://love-trip-kaori.com/
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