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リーンキャンバスとは?書き方やビジネスモデルキャンバスとの違い

最終更新日:2024.02.09編集部
リーンキャンバスとは?書き方やビジネスモデルキャンバスとの違い

リーンキャンバスとは?

リーンキャンバスとは?

リーンキャンバス(Lean Canvas)とは、「Running Lean 実践スタートアップ」の著者であるアッシュ・マウリャ氏によって開発された、スタートアップのビジネスモデルにおける「仮説」を9つの要素に分けて可視化・検証するためのフレームワークです。ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークであるビジネスモデルキャンバスをスタートアップ企業向けに最適化する形で開発されており、ビジネスモデルを1ページにまとめて俯瞰できることから、チームメンバーとの共有や内容の更新が行いやすいというメリットがあります。

この記事で使用しているリーンキャンバス作成用のテンプレートはこちらから無料でダウンロードできます

なぜリーンキャンバスが重要視されるのか?スタートアップのビジネスモデルはほとんど「仮説」

スタートアップの特徴

リーンキャンバスにおける最も重要なキーワードは、「仮説」です。スタートアップビジネスがその他のビジネスと大きく異なる点として、「未知の領域で価値を提供する」という特徴があります。一般的に、スタートアップではないビジネスであれば、市場規模や収益規模の予測は立てやすいです。例えば、街に新たにイタリアンレストランを開くのであれば、ターゲット顧客や市場ニーズについて、ある程度明確な事業予測が立てられると思います。しかしながら、スタートアップにおいてはターゲット顧客や市場ニーズといったものが「不明確」であるという場合がほとんどです。未だ存在しない価値を生み出そうとしているのですから、それを欲しがる人がいるかどうか簡単にはわからないというのは想像に難くないでしょう。つまり、言い換えると初期スタートアップが持っているビジネスモデルはほとんど「仮説」であるということができます。

そのため、スタートアップ企業がビジネスモデルを可視化する際に求められることは、「事業における仮説が明確に表現されていること」となります。ビジネスモデルキャンバスのように、事業の全体像を把握しやすくするだけでは実用性に欠けてしまうのです。ビジネスモデルを固定のものと捉えるのでなく、「常に変化し、最適化されていくもの」と捉え、それぞれの仮説を検証しながら内容をアップデートしていくことを念頭に開発されたのがリーンキャンバスです。

リーンスタートアップとは?スタートアップの仮説検証サイクルのための手法

リーンキャンバスは、「リーンスタートアップ」というスタートアップ企業の仮説をスピーディーに検証しながら、ビジネスを成長させていくための手法にもとづいて設計されています。リーンスタートアップは、短期間で最低限の機能を持った試作品(MVP)を作り、市場ニーズを検証しながらプロダクトを進化させていくという手法で、多くのスタートアップ企業に取り入れられています。

リーンキャンバスの使い方 - 事業構想段階のPSFの検証

プロブレムソリューションフィットとは?

では、スタートアップ企業はリーンキャンバスを取り入れた上で、どのようにビジネスモデルを検証していくと良いのでしょうか?リーンキャンバスは、事業構想段階から実際にユーザーにサービスを提供している時まで、スタートアップの幅広いフェーズで利用することができます。

事業領域を模索している段階であれば、リーンキャンバスのそれぞれの項目に書き出した仮説に対して、何かしらの方法で簡単に検証できないか考えてみましょう。最も簡単な方法は、「顧客は本当に課題を抱えているのか?」「そのような課題をどうすれば解決できるか?」といった疑問を、潜在顧客に対して直接聞いてみることです。これは、PSF(プロブレムソリューションフィット)の検証と呼ばれるもので、プロダクトを作る前の段階で「課題に対するアプローチが適切であるか」を検証します。

リーンキャンバスの使い方 - プロダクトリリース後のPMFの検証

プロダクトマーケットフィットとは?

無事PSFが検証され、「課題を抱える潜在顧客がいること」「提供しようとしている解決策が適切であること」が分かれば、次は実際にその解決策を提供するプロダクトの試作品の開発に取り掛かることでしょう。試作品となるプロダクト(ベータ版やMVP)を実際にユーザーに使ってもらう際にも、リーンキャンバスは役に立ちます。実際のプロダクトを通して、「顧客は実際にお金を払ってでもそのプロダクトの提供価値を必要としているのか?」であったり、「運用体制やコストが適切であるか?」を検証しながら、リーンキャンバスをアップデートしていくことができます。

リーンキャンバスの9つの要素

リーンキャンバスの9つの要素

では、実際にリーンキャンバスを構成する9つの要素について、書き方のポイントを含めて解説します。リーンキャンバスは、9つの要素から成るフレームワークでそれぞれの要素に箇条書きで当てはまる仮説を記入します。リーンキャンバスは、すでに決まっているビジネスモデルを書き出すためのものというよりも、書きながらビジネスモデルのアイデアを考えていくというような性質があるため、リーンキャンバスのテンプレートを印刷した紙や、Miroなどのオンラインホワイトボードを使って埋めていくと良いでしょう。それぞれの要素を埋めていく順番は自由ですが、ここでは「誰に何を提供するのか?」をまず初めに書き出し、その上で「どのようにその価値を提供するのか?」と「それはビジネスとして成り立つのか?」を埋めていく方法を紹介します。

1. 誰に何を提供するのか?

誰に何を提供するのか?

まず、ビジネスの基本となる「誰に何を提供するのか?」というシンプルな問いから始めましょう。この問いに関連する3つの項目は、リーンキャンバスの中央と両端にあります。

課題

課題

課題には、「世の中に存在するであろう課題」の中で、事業として取り組みたいものを一つ書き出します。リーンキャンバスは仮説によって構成されるため、実際にその課題が存在するかどうかの検証は後回しです。もちろん、課題というとあまりにも幅広いため、ここで重要となるのは「創業者が取り組みたい課題であるかどうか」です。どんなに大きな課題であっても創業者が心から取り組みたいと思える課題でなければ、スタートアップの事業として継続することは難しくなってしまいます。

また、課題の項目の下に「既存の代替品」というサブ項目があります。ここには、上記で挙げた課題を解決するために、人々は現状何をしているのかを書き込みます。ここで注意する必要があるのが、この「代替品」は単なる「競合他社」とは意味合いが違うということです。これは、課題解決の代替品であるため、事業化されていないような手段も含まれます。例えば、「学校の時間割を管理したい」という課題を解決する既存の代替品は、モバイルアプリやWebサービスのみならず、「紙に書いて壁に貼っておく」などの幅広い手段が含まれます。リーンキャンバスにおける「既存の代替品」では、競合を理解することではなく、「代替品を使ってでも課題を解決したいと思っている人がいるかどうか?」を検証することが大きなポイントとなります。なぜなら、代替品を使ってでも解決したいと感じている課題であれば、その課題専用に作られたソリューションを提供すれば、きっと利用してもらえるはずだからです。

顧客セグメント

顧客セグメント

顧客セグメントには、上記で挙げた課題を抱えている人たちは「どのような人であるか?」の仮説を書き込みます。初めはある程度広いセグメントとして定義しておき、仮説の検証が進むにつれてより詳細な顧客セグメント像を特定できるようにすると良いでしょう。

顧客セグメントの項目にも、「アーリーアダプター」というサブ項目があります。アーリーアダプターとは、新しいプロダクトやサービスを積極的に開拓し、比較的早い段階で取り入れる人々のことをさします。アーリーアダプターは、顧客セグメントの中でも特にサービスを初期段階で使ってくれる可能性のある人々であるため、明確に定義した上でアプローチする必要があります。例えば、顧客セグメントを「学生」として定義した場合でも、すべての学生が出たばかりのサービスを使ってくれるわけではありません。リーンキャンバスでは、特に新サービスに興味のありそうな学生とはどのような学生なのかを、この「アーリーアダプター」の項目に記載し検証します。アーリーアダプターについての詳しい解説は、別の記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

独自の価値提案

独自の価値提案

独自の価値提案は、上記で挙げた「課題」を抱える「顧客」がこのサービスを利用することによって得られる、「価値」を書き出す項目です。ここでは「独自の」という部分が重要で、顧客が課題を解決するためにこのサービスを利用することで得られる特別な価値を挙げましょう。もちろん、こちらも仮説の状態で書き出し、実際にそれらが顧客にとって本当に大きな価値をもたらすのかは後に検証しましょう。また、この独自の価値提案に、サービスを主語として「〇〇を提供する」のように書いてしまう場合が多くみられますが、顧客側を主語として「〇〇を得る」「〇〇から解放される」のような記述を意識してみるのも良いです。こうすることで、提供する価値の本質が明確になり、顧客視点でそれが本当に「価値」といえるのかが検証しやすくなります。

独自の価値提案にも「ハイレベルコンセプト」というサブ項目があります。ハイレベルコンセプトとは、「提供価値を一言で表すとどのようなものか」を示す一文で、「ミュージシャンのためのLinkedIn」や「物を運ぶためのUber」など、一言でイメージが湧きやすい表現を考えます。こうすることで、PSF検証のためのインタビュー時にサービス内容をイメージしてもらいやすくなります。

ここまでの3項目で、そのビジネスが「誰に何を提供するのか?」が明確になります。PSFの検証時には、この3項目を重点的に検証し、「その課題が本当に解決する価値のあるものなのか?」そして、「解決のためのアプローチは適切か?」を明確にしましょう。

2. どのようにその価値を提供するのか?

どのようにその価値を提供するのか?

次の3項目は、上記で定義した価値を「どのように提供するのか?」についての問いです。

ソリューション

ソリューション

価値を提供する媒体となるソリューションはどのようなものになるのか書き込みましょう。よくある間違いとして、前述の「独自の価値提案」とこの「ソリューション」が同じようなものになってしまっている場合があります。例えば、

  • 独自の価値提案 = 使いやすいTodoアプリ

  • ソリューション = Todoアプリ

のようなものです。このようなリーンキャンバスだと、検証するべき項目が不明確になってしまいます。このような事態を避けるためには、提供価値と具体的なソリューションは分けて考え、同じ価値を提供できるソリューションとして別の選択肢を模索できる余地を残すことが重要です。例えば、

  • 独自の価値提案 = タスクが多く感じるストレスからの解放

  • ソリューション = Todoアプリ

のように定義しておけば、後にもしそのソリューションでは価値を提供することができないと判明しても、同じ価値を提供できる別のソリューション(例えば、タスク代行サービスなど)を模索することができるようになります。

圧倒的な優位性

圧倒的な優位性

圧倒的な優位性とは、他の企業が同じサービスを真似したとしても絶対に負けないような利点で、スタートアップのビジネスにおいて非常に重要なものとなります。なぜなら、サービスへの需要があることがわかると、他社が参入してくることは良くあることだからです。その場合、資金力に長けた大企業が参入した場合でも負けないような優位性を持っていることが望ましくなります。

チャネル

チャネル

チャネルとは、いわゆる販路のことで、どのように「顧客と繋がりを持つか」の仮説です。シンプルなものであれば、電話営業も一つのチャネルです。チャネルの仮説は複数設けておき、検証時にどのチャネルが最適なのかをテストすると良いでしょう。

3. それはビジネスとして成り立つのか?

それはビジネスとして成り立つのか?

そして最後に、リーンキャンバスの土台となる右下と左下の項目が、「それはビジネスとして成り立つのか?」という問いです。ここまでの項目は、ビジネスの内容や市場ニーズを検証することができるようなものでした。次の項目は、そのビジネスが利益を生むのかという部分を検証するためのものとなります。そのビジネスの実現可能性を検証するために必要となることはもちろん、PMFのフェーズでも重要となる項目で、提供する価値に対して顧客が払える金額と、そのためにかかるコストのバランスを検証するために必要となります。

主要指標

主要指標

主要指標には、売上につながる指標の中でも事業の成長率を測れるような指標を書き出しましょう。良い書き方としては、一番上にKGI(3年以内に売上10億円など)を記載し、その下に関連指標となるKPIをリストアップするような形です。この形であれば、ビジネスの実現可能性の評価が行いやすくなります。

コスト構造

コスト構造

コスト構造とは、事業を運営するためにかかる費用のことです。こちらはできるだけ具体的に漏れがないように書き込めると良いでしょう。

収益の流れ

収益の流れ

収益の流れは、そのビジネスを通して顧客から得ることのできる収益の見積もりです。具体的な金額の見積もりはもちろん、複数の収益源を作ることができないかにも注目して記入してみましょう。コスト構造と収益の流れをみて、「十分な利益が出そうか?」また「その利益を生むためにはどの程度の顧客が必要か?」などをイメージすることが大切です。

リーンキャンバスのよくある間違いと書き方のポイント。

検証するべき仮説が不明確

「なぜリーンキャンバスが重要視されるのか?」でも述べたように、リーンキャンバスに書き出される項目はすべて「検証されるべき仮説」です。この目的を意識して取り組まないと、それぞれの要素に対して何を検証すれば良いのかわからないような状態に陥ってしまいます。これを回避するためには、それぞれの項目をできるだけ具体的に書いていくと良いです。例えば、顧客セグメントには「30代男性」のように大まかなものを記載するのではなく、「30代男性で、独身。可処分所得が増えたが、使える時間が少ない。」のように細かく書くことで、本当にその人たちが顧客セグメントに当てはまるのかを検証することができます。リーンキャンバスは常にアップデートされていくべきものなので、仮説があっていなければ、また新しい仮説を書き込めば良いのです。

独自の価値提案とソリューションが同じ

こちらは主に、「独自の価値提案」に顧客視点での価値ではなく、単に「何を提供するか」を書いてしまっている場合に陥る間違いです。リーンキャンバスにおいて、「独自の提供価値」と「ソリューション」は切り分けて考え、それぞれ別に検証されるべき項目です。例えば、独自の価値提案に、具体的なプロダクトの内容を書いてまうと、検証のためのインタビュー質問が「こんなプロダクトあったら欲しいですか?」になってしまいます。もちろん、欲しいと言ってもらえれば良いのですが、いらないと言われた場合、そもそも課題自体が存在しないのか、それとも課題へのアプローチ(ここでは具体的なプロダクトの内容)が悪かったのか、わからなくなってしまいます。独自の価値提案としては、顧客視点での価値を記載し、検証のためのインタビューでは、「〇〇ができるようになったら良いと思いますか?」や「〇〇から解放されるとしたらどう思いますか?」といった、より抽象的な質問をぶつけるようにしましょう。提供価値が顧客に求められていることがわかっていれば、「どのようにその価値を提供するのか?」つまり、ソリューションの具体的な内容は後からいくらでも変えることができます。

圧倒的な優位性が一過的

最もよく見かける「圧倒的な優位性」の項目に「優れたデザイン」や「優れたUX」というものがあります。確かに、優れたデザインを作れることは競合に対する優位性と言えるでしょう。しかし、そのデザインは絶対に他社には真似できないものでしょうか?仮に、競合が大規模な資金調達をして自社と同程度に優秀なデザイナーやエンジニアを雇ったとしたら、自社の優位性は無くなってしまいます。リーンキャンバスにおける「圧倒的な優位性」としては、「構造的に生まれる優位性」を考えることが重要です。つまり、真似することが非常に難しいものである必要があるのです。例えば、「ネットワーク効果でユーザーが増えるほど、サービスの価値が高まる」「SEOによる集客を強化し、後発のドメインでは追いつけなくする」など、競合が出てきたとしても負けることのないような「仕組み」を考えることが求められます。

リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違い

リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違い

リーンキャンバスの概要やその書き方について紹介しましたが、リーンキャンバスの元ともなっている「ビジネスモデルキャンバス」との違いについて触れておきたいと思います。これまで、リーンキャンバスにおける最も重要なキーワードは、「仮説」であると述べましたが、まさにこの部分がビジネスモデルキャンバスとの大きな違いです。ビジネスモデルキャンバスには、仮説の検証という考え方はなく、すでに存在しているビジネスモデルを「可視化」することに特化したフレームワークです。そのため、ビジネスの出発点となる「課題」は存在することがすでにわかっており、どのようにそれを解決しているのかという「現状のビジネスモデル」を把握しやすくすることに優れています。そのため、自社の現状分析や競合分析の際に用いられることが多いです。また、新規メンバーとして事業に参加する人がいる際に、事業概要を1ページにまとめて伝えられるツールとしても有効です。

Figma & PDF版 『リーンキャンバステンプレート』

unprintedでは、Figmaファイルと印刷して使用できるPDF形式のリーンキャンバスのテンプレートを配布しています。どちらも登録やメールアドレスの入力は不要。個人・商用に関わらず自由に使用することができます。

リーンキャンバス
リーンキャンバス

まとめ

今回の記事では、スタートアップのビジネスモデル検証に使われるリーンキャンバスについて、その目的と効果的な書き方について紹介しました。記載する内容によっては、いまいち役に立たないものにも、初期スタートアップビジネスの根幹にもなり得るリーンキャンバスですが、最も重要なポイントは「仮説検証という目的を意識して取り組む」ことです。これを抑えて取り組むことで、作成後も継続的にアップデートして使っていくことができるようなリーンキャンバスを作ることができるようになります。unprintedでは、リーンキャンバスの仮説を検証する際に重要となる顧客、アーリーアダプターについても詳しく解説しておりますので、ぜひそちらも参考にしてみてください。

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