
ここ数年でデジタルプロダクトデザイン領域に定着しつつあるUXリサーチ文化。ユーザー理解を深めながらプロダクトを改善していく合理的な取り組みですが、デザイナーの職務領域で、実際に手を動かしてデザインをすることよりも質問や説明など「話すこと」が仕事全体の質を大きく左右するケースが増えたように思います。普段から話すことが苦手な方や、緊張しやすい方は戸惑うシーンが増えているのではないでしょうか。
このシリーズでは、そんな話しベタさんがUXリサーチを諦めずに取り組めるようなやり方を3回に分けてご紹介していきます。
初回「デプスインタビュー編」では、話しベタの私が自分でもできるようにアレンジしながら実践してきたデプスインタビューのやり方をご紹介します。
UX/UIデザイナー。 事業会社でグラフィックデザイン/映像制作、開発会社でUIデザインを経験した後、2018年よりエンタメコンテンツアプリ「peep」、音声プラットフォーム「Voicy」など、スタートアップ企業のデジタルプロダクトデザインに携わる。2024年よりフリーランスのデザイナーとして活動。 著書に『フォトショの5分ドリル 練習して身につけるPhotoshopの基本』。
基本スタンスは自己開示と自分に合った方法へのアレンジ
一言に「話しベタ」と言っても、原因や苦 手意識の度合い、実際に業務上で躓くポイントは一人一人違うので、まずは自己開示のアプローチから始めると良いでしょう。例えば新しい環境で働く場合であれば自己紹介の中で少し触れる程度でもOKです。この時点で何かが大きく変わるわけではありませんが、実際に話すことがメインの業務を担当する際に自分にとって負荷の少ない方法にアレンジしやすくなります。「この方法でやらせてください」と言い出しやすい関係を普段のコミュニケーションから作っておくことが重要です。
私の場合はとても緊張しやすいため、就職時の面接や、新しいチームでの自己紹介の際などに必ず「あがり症で、少人数のミーティングでも緊張してしまうくらいなのですが、いつも苦手なりにやり方を工夫しているのでよろしくお願いします。」と伝えるようにしています。そうすると大概「意外ですね、話していても全然そう見えないです」という反応が返ってきたりします。緊張を隠そうとせず自己開示した結果、多少寛大な気持ちで見てもらえたり、自分にとって負荷の少ないやり方で取り組ませてもらえているのが大きいのかもしれません。
無理して一般的な型通りにやるか諦めるかではなく、自分にとって負荷の少ない方法にアレンジしてどんどん挑戦してみませんか。
半構造化インタビューでも深掘り質問まで想定する
デプスインタビューの特長は、被験者の行動や表層的な回答だけでなく、そこに至る背景までを掘り下げて理解できることです。半構造化インタビューは、全てを予め設計した上で行うアンケートや構造化インタビューとは違い、偶発的な会話の流れや被験者のリアクションに応じて深掘り質問をしていく手法です。後から分析する際に有用な発言を引き出すための「柔軟で上手い質問」を求められるので、実は何気ない会話の中で「何か面白いこと言ってよ」と要求されるのと同じくらい高いハードルではないでしょうか。
ここでは、「そんな上手い質問、ぶっつけ本番で出来るわけがない」と思っている話ベタさん向けの深掘り質問のやり方をご紹介します。
私は基本的に深掘り質問は大きく4種類に分類できると考えています。
行動:その時実際にどうしたか
理由:なぜそうしたか
感情:結果的にどう感じたか
経験:過去にどのような体験をしているか
仮に被験者が「行動」についての話をした場合は、それに付随する「理由」「感情」「経験」を会話の流れに乗って順繰りに質問するといった感じで、1つの事柄を複数の視点から見ている状態を作ることが深掘りの基本形です。
一つの事柄を複数の視点から見ている状態
話の上手い人はリアルタイムでこれらの整理をしながら次の質問をしていることになりますが、それができないから困っているという話しベタさんが多いのではないでしょうか。
そこで、先回りしてインタビューガイド(質問リスト)を作成する段階で「行動」「理由」「感情」「経験」を意識した質問を予め盛り込んでおくことをおすすめします。質問を想定すると回答の仮説も立てやすいので、例えば「回答が〇〇の場合」と「それ以外の場合」といった具合に分岐させれば、その先にもある程度深掘り質問を想定しておくことができます。
半構造化インタビューとしては型破りですが、このように4種の深掘り質問を会話の流れとセットで想定しておけば、自然な会話を装いつつ、少なくとも何を聞いて良いか全く検討がつかなくなる状況だけは回避できるでしょう。
ただ、インタビューの時間は限られています。会話のルートを細かく想定しても聞けなければ意味がないので、リサーチの目的や問いに立ち返り、重点的に深掘りすべき箇所は細かく、それ以外の箇所はシンプルに一本道で設計していくのがおすすめです。
インタビューガイドもフローチャート形式で作成する
前段で説明した4種の深掘り質問や被験者からの回答による分岐質問を想定する場合、インタビューガイド自体もオーソドックスなリスト形式よりフローチャート(樹形図)形式で作る方が、質問の流れや当日の進捗を把握しやすいと感じる人もいると 思います。フローチャートで作成する場合、ツールはFigJamやMiroなど自由度が高く、複数人でリアルタイム編集ができるものをおすすめします。
私の場合は、インタビューガイドの質問の下に書記係用スペースを作っておき、当日の会話録も付箋として貼り付ける形で書き込んでもらっていました。こうすると後々の分析時にも発言を流用しやすくなったり、全く別の機会にも会話録を気軽に振り返りやすく、新たな気づきを得る機会が増えたように思います。