
バリュープロポジションとは?
バリュープロポジションとは、企業が顧客に提供する価値のことです。顧客がなぜその製品やサービスを選ぶのか、その理由を明確にする独自の要素とも言えます。市場において競合他社との差別化を図る際、バリュープロポジションは重要な役割を果たします。
バリュープロポジションは、さまざまなフレームワークを活用して分析します。たとえば3C分析(顧客、競合、自社の能力)をもちいることで、市場のニーズや競合の動向を把握し、自社の強みを活かした価値提供が考えられます。SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)を活用すれば、自社の内部環境と外部環境を分析し、バリュープロポジションを洗練させることも可能です。また、アンゾフの成長マトリクスを参考に、市場の拡大や新製品の開発を通じて、どのような価値を顧客に提供するかを検討できます。
これらのバリュープロポジションを可視化するものが「バリュープロポジションキャンバス」です。次のセクションで詳しく解説 しますが、まずは企業が顧客に提供する独自の価値を理解することがスタート地点となることを理解しておきましょう。
バリュープロポジションキャンバスの概要と構成要素
バリュープロポジションキャンバスは、バリュープロポジションを体系的に分析し、可視化するためのフレームワークです。このキャンバスを使用することで、顧客の本質的なニーズや課題を深く理解し、そ れに対応する製品やサービスの価値が明確になります。
バリュープロポジションキャンバスは、顧客中心のアプローチを強化し、ビジネスモデル全体の効果を高めるための重要なツールです。バリュープロポジションキャンバスを作成することで、製品やサービスの価値提案を最適化し、市場での競争力を高められます。
このキャンバスは、大きく二つのセクションに分かれています。配置されている内容は、左側が「価値提供できる内容(Value Proposition)」、右側が「顧客の状況(Customer Segment)」です。価値提供できる内容(Value Proposition)とは企業が提供できる内容を指し、顧客の状況(Customer Segment)は現時点での顧客の状況を意味します。この大枠の分類で、企業が提供する製品やサービスが、顧客にとってどのような意味を持つのかを明確にすることが可能です。
顧客が解決したい課題(Customer Job)
「顧客が解決したい課題(Customer Job)」は、顧客の状況(Customer Segment)セクションにおける、顧客が達成しようとしている具体的な作業や目標を指します。これは単に製品やサービスを使用する行為に限らず、顧客の日常生活や仕事上での目的達成に関わるものです。たとえば、時間の節約や特定のスキル習得、ストレスの軽減など、顧客が直面するさまざまな課題が含まれます。
顧客の利得(Gains)
「顧客の利得(Gains)」は、顧客の状況(Customer Segment)セクションにおける、顧客が製品やサービスを通じて得られるメリットやプラスの成果を指します。これには、効率の向上やコスト削減、快適さの増加や社会的地位の向上など、顧客が期待する利点が含まれます。たとえば、高品質なサービスによる満足感や、革新的な製品による生活の改善などが考えられます。
顧客の悩み(Pains)
「顧客の悩み(Pains)」は、顧客の状況(Customer Segment)セクションにおける、顧客が経験する不便や問題点を指します。これには、製品やサービスの使用における課題や潜在的なリスク、負の感情などが含まれます。たとえば、使い勝手の悪さやコスト、時間の浪費などが含まれます。
製品とサービス(Product & Services)
「製品とサービス(Product & Services)」は、価値提供内容(Value Proposition)のセクションにおける、企業が顧客に提供する具体的な製品やサービスを指します。ここには企業が提供するサービス名・商品名を記載します。
顧客の利得をもたらすもの(Gain Creators)
「顧客の利得をもたらすもの(Gain Creators)」は、価値提供内容(Value Proposition)のセクションにおける、企業が提供する製品やサービスが顧客にどのように価値を提供するかを示します。たとえば、時間の節約やコスト削減、使用の容易さや独自の機能などが、顧客にとっての利得となる要素を書き出します。
顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers)
「顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers)」は、価値提供内容(Value Proposition)のセクションにおける、顧客が直面する問題や不満を解消するための要素を指します。たとえば、使い勝手の改善や迅速なサポート、追加コストの削減や安全性の向上などを記載します。Pain Relieversの特定と改善は、顧客の忠誠心を高め、競合他社との差別化を図るために重要です。
バリュープロポジションキャンバスを作成する目的
バリュープロポジションキャンバスを作成する目的は、主に以下3点挙げられます。
自社のサービスが市場のニーズに合致しているか明確にする
自社サービスが顧客ニーズにマッチしているか確認する
自社が気付いていない顧客ニーズを見つける
それぞれ解説していきます。
自社サービスが顧客ニーズにマッチしているかの確認
バリュープロポジションキャンバスをもちいることで、自社サービスが顧客のニーズにどれだけ合致しているかを確認できます。顧客の解決したい課題、期待する利得、感じている悩みを理解することで、それらに対して自社の製品やサービスがどのように応えているかの分析が可能です。この分析により、顧客が本当に求めている価値が自社の提供するサービスに反映されているかを検証します。
市場の変化や顧客の動向の把握にもつながるため、もしミスマッチがあった場合は、サービスの再設計が必要になることもあります。
競合にはない独自性の明確化
バリュープロポジションキャンバスを活用することで、競合他社にはない自社の独自性を明確化できます。この分析により、自社の製品やサービスが市場内でどのように差別化されているかを理解し、その独自の価値を強化することが可能です。
このプロセスは、自社の強みを活か し、市場での競争優位を築くための戦略を練る上で役立ちます。競合にはない独自性の明確化は、ブランドの魅力を高めることになるため、顧客のファン化促進にもつながります。
自社が気付いていない顧客ニーズの発見
バリュープロポジションキャンバスを作成することで、自社がこれまで気付いていなかった顧客ニーズの発見につながります。顧客の隠れた要望や未満足のニーズが明らかになることで、新たな市場機会を探ることも可能です。
顧客の日常生活や業務での小さな不便や悩みを理解することは、革新的な製品やサービスを開発するヒントにもなります。自社が気付いていない顧客ニーズの発見は、企業の成長や競争に対する優位性を確保するためにも重要なステップです。
バリュープロポジションキャンバスの作り方
ここでは画像のサンプルをベースに、バリュープロポジションキャンバスの作成方法について、以下のステップにわけて解説します。
顧客セグメントにあたるペルソナを設定する
顧客の課題・利得・悩みを整理する
自社が提供できるサービスと価値を整理する
なお、バリュープロポジションキャンバスの作成は、顧客基点で分析してから提供価値を考える順番が基本となるため、右から左へ流れていくように進めていきます。
STEP1:顧客セグメントにあたるペルソナを設定する
初めに、ターゲットとなるユーザーの具体的な像を作り上げます。ペルソナはユーザーの行動や思考、価値観などのデータに基づいて作られた架空のユーザー像です。ここでは「家計を細かく管理する時間のない30代〜40代男性・女性」と設定します。このペルソナは、バリュープロポジションキャンバスの基本となり、作成するチーム全体が共通の認識を持てるようになります。
ペルソナ作成は以下のステップで作成します。
定量データを踏まえてターゲットユーザー層を決める
ターゲットユーザーの定性インタビュー調査を実施する
ペルソナ・スペクトラムでユーザー属性を洗い出す
ユーザー属性のセグメント毎に分析する
分析結果をペルソナシートに記載する
このステップについては、以下の記事で詳しく解説しています。
STEP2:顧客の課題・利得・悩みを整理する
ペルソナ設定ができたら、次に「顧客の課題・利得・悩み」を整理します。このステップでは、顧客が日常で遭遇する課題や、製品・サービスに対する期待、そして経験する不便さやフラストレーションを詳細に分析します。これにより、 顧客が真に求めているものや、サービスが提供すべき価値が明確になります。
また、顧客の悩みを解消し、利得を最大化するための具体的なアプローチを考えることが可能になります。このプロセスは、製品やサービスの改善点を特定し、顧客満足度を高めるために不可欠です。
STEP3:自社が提供できるサービスと価値を整理する
さいごのステップとして、価値提供内容(Value Proposition)のセクションにおける「製品とサービス」「顧客の利得をもたらすもの」「顧客の悩みを取り除くもの」の3項目を整理します。
ここでは、まず「製品とサービス」を列挙し、それが顧客のどのような課題に対応しているかを特定します。次に「顧客の利得をもたらすもの」を検討し、自社の提供する価値が顧客のどのような利益や満足を生み出すかを理解します。そして「顧客の悩みを取り除くもの」を整理し、自社のサービスが顧客のどのような不満や問題を解消するかを考えます。
これらの要素を総合的に分析することで、自社の価値提案を最適化し、顧客にとって真に価値あるサービスを提供することが可能になります。
バリュープロポジ ションキャンバスと名前が似ているフレームワーク
バリュープロポジションキャンバスは他のビジネスフレームワークとしばしば比較されます。とくに「ビジネスモデルキャンバス」と「リーンキャンバス」は名前が似ており、機能や目的においても類似点がありますが、それぞれに独自の特徴があります。ここでは、これらのフレームワークとバリュープロポジションキャンバスとの違いについて解説します。
ビジネスモデルキャンバスとの違い
ビジネスモデルキャンバスとバリュープロポジションキャンバスの主な違いは、それぞれの焦点と範囲にあります。
ビジネスモデルキャンバスはビジネスモデル全体を可視化す るために設計されており、9つの基本的な構成要素を含んでいます。これには顧客セグメント・価値提案・顧客との関係・チャネル・主な活動・主なリソース・主なパートナー・収益の流れ・コスト構造が含まれます。一方、バリュープロポジションキャンバスは、とくに顧客のニーズと企業が提供する製品やサービスの間の関係に焦点を当てています。
ビジネスモデルキャンバスはビジネスの全体像を把握するのに役立ち、チーム内のコミュニケーション促進や効率的な計画立案に貢献します。バリュープロポジションキャンバスは、顧客の深い理解と製品やサービスの価値提案の最適化に特化している点が、大きな違いと言えるでしょう。
リーンキャンバスとの違い
リーンキャンバスとバリュープロポジションキャンバスの違いは、分析の目的やアプローチにあります。
リーンキャンバスは、スタートアップのビジネスモデルにおける「仮説」を9つの要素にわけて可視化・検証するためのフレームワークです。このフレームワークは、ビジネスモデルキャンバスをスタートアップ企業向けに最適化したものであり、ビジネスモデルをまとめて俯瞰できるところが利点と言えます。スタートアップビジネスが他のビジネスと異なる点は、「未知の領域で価値を提供する」という特徴があることです。リーンキャンバスは、事業構想段階からプロダクトリリース後まで、スタートアップの幅広いフェーズで利用できる点が特徴です。
リーンキャンバスは、ビジネスモデルを固定のものと捉えるのではなく、「常に変化し、最適化されていくもの」と捉え、それぞれの仮説を検証しながら内容をアップデートしていくことを目的としています。そのため、市場で変動する顧客ニーズを捉えるためのバリュープロポジションキャンバスと、組み合わ せて活用することで、より高い効果を発揮します。