インタビュー

「AIペルソナ」が業界トレンドに? 生成AIで激変する「デザインリサーチ」 最前線で活躍するリサーチャーに学ぶ

最終更新日:2025.12.04
「AIペルソナ」が業界トレンドに? 生成AIで激変する「デザインリサーチ」 最前線で活躍するリサーチャーに学ぶ

価値あるプロダクト開発に欠かせない「デザインリサーチ」。同領域でも生成AIが活発に利用され、成果をあげているという。症状検索エンジンアプリ「ユビー」をはじめ、医療AIプロダクトを提供するUbieのリサーチャー・プロダクトマネージャー・デザイナー 畠山糧与(Hatake)さんは、「生成AIの活用により、QCD(品質・コスト・納期)の全部取りが実現しつつある」と話す。最前線で「デザインリサーチ」に取り組むユビーの畠山さん、一般社団法人リサーチアソシエーションの代表理事であり、アンカーデザイン 代表取締役の木浦幹雄さんに、「デザインリサーチにおける生成AIの活用方法とリスク」を聞いた。

お話を聞いた人
畠山 糧与さん
畠山 糧与さん

医療 AI スタートアップ「Ubie」のリサーチャー・プロダクトマネージャー・デザイナー。東京大学 経済学部を卒業し、リクルート、Goodpatchを経て、2018年より現職。 Ubieでは、月間1,300万人が使う症状検索エンジンアプリ「ユビー」や医療機関向け「ユビーメディカルナビ」などを提供。

木浦 幹雄さん
木浦 幹雄さん

アンカーデザイン株式会社 代表取締役、兼一般社団法人リサーチアソシエーション 共同代表理事。キヤノン株式会社にて新規事業/商品企画に従事したのち、デンマークCIIDにてデザインを活用したイノベーション創出を学ぶ。IPA未踏スーパークリエータ、グッドデザイン賞など受賞多数。著書に「デザインリサーチの教科書」、「デザインリサーチの演習」。

生成AIにより、著しく効率化が進む「デザインリサーチ」

―― 現在、デザインリサーチ業務において、どのように生成AIを活用していますか。

木浦:私が代表を務めるアンカーデザインでは、デザインリサーチにまつわる技術やノウハウを活用して、クライアントのプロダクトやサービスを支援しています。業務で生成AIの活用を開始したのは2023年後半で、現在は日常的に使用しています。

デザインリサーチは概念が広い言葉ですが、主な業務として扱われるのは「インタビューとその分析」です。同業務で言えば、インタビューを行うべき人物やテーマの選定、インタビュー時のスクリプト(原稿)の作成、録画・録音したインタビューデータの文字起こしや発言ログの作成、インタビュー内容の分析、クライアント向けの資料作成など、ほぼ全ての業務で活用しています。使用ツールは、リサーチの設計部分は「ChatGPT」、分析は「Claude」がメインですが、ケースバイケースで使い分けていますね。

Claudeは、ChatGPTと比較して文脈理解や推論タスクが長けている印象を持っています。出力が丁寧で最後までやり切る力もClaudeの強みであり、分析タスクには比較的向いていると考えています。一方で、ChatGPT は"設計"や"構造化"のように「ゼロイチ」や「抽象→具体」、あるいはリサーチ設計のように「問い→設問」に分解していくタスクに長けている印象です。ただし、これはあくまでも現時点での特性に基づくもので、日々状況は変わっていくと思います。

畠山:私は主にユビーの新規事業におけるリサーチャー・プロダクトマネージャー・デザイナーを担当していて、時にリサーチャーとして振る舞うことがあります。当社では、社外秘の情報も扱える自社の生成AIツール「Dev Genius」を2023年に導入し、現在では社内のほぼ100%が毎日AIを活用している状況です。

UbieのBtoCプロダクト、症状検索エンジンアプリ「ユビー」

UbieのBtoCプロダクト、症状検索エンジンアプリ「ユビー」(Ubie提供)

Ubieが導入する社内AIツール「Dev Genius」

Ubieが導入する社内AIツール「Dev Genius」(Ubie提供)

畠山:リサーチ業務におけるAI活用で言うと、社外秘や個人情報を扱う場合は「Dev Genius」を、それ以外の調査や最新AI技術を試すような場合は、「Gemini」を中心とした汎用的なAIツールを使っています(OpenAI API 利用規約等をリーガルチームと精査し、API経由の場合、学習での利用がされないことを確認の上、Dev Geniusを利用しています)。

具体的な活用方法は、木浦さんとほぼ変わりません。一つ加えるとすれば、自社ツール「Dev Genius」は、「ユーザーペルソナ」とのシミュレーションにも大いに活用しています。同ツールには、過去のリサーチで蓄積されたインサイトを学習したユーザーペルソナが設定されています。

例えば、新機能をリリースする前段階で、このAIペルソナに対して「このプロダクトにどんな印象を持つ? どんな点が気になる?」といった質問を投げかけ、その回答をもとに改善を加えることもあります。過去のインタビューの発言ログや得られたインサイトのインプットを継続するなかで、AIペルソナの精度が高まり、リアルな回答を得られるようになった実感がありますね。

Ubieでは、AIペルソナに対して日常的に話しかけ、得られた回答を開発に活かしているという

Ubieでは、AIペルソナに対して日常的に話しかけ、得られた回答を開発に活かしているという(Ubie提供)

―― 日常的にAIを活用することで、働き方に大きな変化がありそうですね。

木浦:現段階では、リサーチのプロセスそのものが大きく変わった印象はありません。ただ、業務効率は著しく向上していて、1〜2日かかっていた業務が数時間に短縮されるなどのインパクトはあります。例えば、インタビュー後の分析では、以前はアルバイトを雇って文字起こしをしていたところ、AI活用により数分で終了します。それに伴い、インタビューの要約を見ながらデブリーフィング(振り返り)ができるようになるなど、スピーディーに質の高いアウトプットにつなげられている印象です。

畠山:私の場合は、今や同僚や上司と話すよりAIとやり取りするほうが多いかもしれません。働き方の変化では、「QCD(品質・コスト・納期)の両立」が現実化してきたなと。これまでは、「質を上げれば納期が遅れる」「納期を縮めれば品質が落ちる」など、3つのうちいずれかがトレードオフになりがちでした。それが同時に実現しやすくなったと感じます。

生成AIの登場は、このように無意識に受け入れていたバイアスを壊せるほどのインパクトがあると思います。ただ、既存のやり方の延長線上にある改善策では、大きな飛躍を生むことが難しいため、これまでの常識を逸脱したような業務プロセスを振り切って描き、AIの活用可能性を探っていく。それが、UbieにおけるAI活用のスタンスです。

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業界トレンドの「AIペルソナ」 信頼度をどう評価するのか

―― デザインリサーチの最前線で活動されているお二人が、業界における「生成AIのトレンド」として認識していることはありますか。

畠山:プロダクト開発においてAI活用が進むにつれて、リサーチが高価なアクティビティになっている印象があります。開発業務において、最も技術が加速しているのが「エンジニアリング」であり、1〜2週間かかっていたものが数時間で実装まで完了する世界に変化しています。

すると、構造的にボトルネックになるのは「実装の前後」です。開発過程において、ユーザーニーズを特定するリサーチ業務は重要ですが、一方でエンジニアリングほど業務効率が向上していないために、開発の遅れにつながりやすい。この辺りは、企業によってリサーチ業務の捉え方や方法が大きく変わってきていると思います。

木浦:私も同様の認識があります。そうした課題感から、ユビーさんのようにAIで「合成ペルソナ」(※)を作成して、インタビューを効率化する企業は増えていますよね。海外では、企業向けに合成ペルソナを開発するスタートアップなどが急増していて、世界的なトレンドとも言えるかもしれません。

※「合成ペルソナ」とは、複数の顧客や潜在顧客の属性を「合成」して作り上げた、仮想の代表人物像を指す。本記事ではAIで作成したペルソナを、以降「AIペルソナ」と表現する。

Ubie 畠山糧与さん(左)とアンカーデザイン 木浦幹雄さん

Ubie 畠山糧与さん(左、Ubie提供)とアンカーデザイン 木浦幹雄さん(アンカーデザイン提供)

―― 「AIペルソナ」の信頼度は、どのように評価されていますか。

木浦:ケースバイケースですが、一定の信頼度はあるだろうと考えています。そもそもペルソナは、開発チームのすり合わせを目的に「山田太郎さん」のような架空の人物を自社のメインターゲットとして設定することです。従来のペルソナの目的に照らし合わせれば、AIペルソナの活躍の場は十分にあるのではないでしょうか。

畠山:現状の評価で言うと、効率的に仮説を立てるなら信頼度は高いと考えます。私の業務で言うと、この10月から6年ぶりに医療機関向けの事業を担当することになりました。そうした際、大病院の医師が普段どんなことを意識しながら仕事に取り組んでいるのか、一方で地方都市の病院に務める医師はどうか、看護師はどうか、といったユーザーのメンタルモデルを初期段階で理解するうえでは、非常に役立ちます。実際に、AIペルソナの回答をベースに社内の医師や看護師にヒアリングしたところ、AIの回答が的外れではないことが分かっています。

一方で、AIペルソナだけでは不十分なこともあります。AIは平均的な回答をするものの、どういった利用環境で使っているのか、他の類似サービスと比較検討したのかなど、自社プロダクトに触れる前後の文脈までは理解できないと思います。ですので、AIペルソナを有効活用しつつ、より深いインサイトを得るには従来のリサーチを行う必要があるのだろうなと。

初期段階でユーザーインサイトを知るには、AIペルソナは非常に有用だという

初期段階でユーザーインサイトを知るには、AIペルソナは非常に有用だという(Ubie提供)

木浦:「平均的な回答」というのは私も課題だと感じていて、例えば、AIペルソナによるリサーチだけでプロダクト開発を行った場合、市場にある製品と似通った仕様になってしまうのかなと。どうしても差別化が難しくなると思います。

「事実は小説より奇なり」と言いますが、ユーザーインタビューをしていると、「まさか」という経験をしている方が山ほどいます。これが生身の人間にインタビューするおもしろさかなと。そうした滅多にない経験をしている人の回答から発想を膨らませていき、ユニークな製品に仕上げるというスタンスは、開発において非常に重要だと思いますね。

畠山:まさに、AIペルソナでは拾いきれないインサイトを探しにいくのがユーザーインタビューの醍醐味ですよね。70点のプロダクトを作るならAIペルソナでも可能ですが、その先の100点、120点を目指すとしたら、現状のAIでは難しいはずです。

「責任」をどう捉えるか 人間より賢いAIと協業するリスク

―― 日常的にリサーチ業務に浸透している生成AIですが、お二人は「活用によるリスクや課題」をどう捉えていますか。

木浦:先程の話と重複しますが、AIに頼りすぎると似たような発想ばかりになり、世の中に画一的なプロダクトがあふれるかもしれないなと。これが誰にとってのリスクかと言われると難しいところですが、類似製品ばかりでおもしろみがなくなるのは、社会的なリスクと言えるかもしれません。現場の課題感で言うと、法律や倫理的な課題など山積みだろうと思います。

畠山:似たような観点で、「どこまでをAIに任せるのか」という責任の所在は最重要の課題だと考えています。OpenAIやGoogleなどAIを提供する企業も取り組み続けており、私たちデザイナーやリサーチャー自身も問い続けなければならないテーマなのかなと。私たち人間より圧倒的に賢いものと、これだけ多くの人が付き合っていく社会が初めて到来したわけで、その知性との向き合い方はまだ確立されていません。

AIが人間よりも賢いからと言って、例えば、自動車が全て自動運転になると私は思っていません。国によっても許容可能なリスクの程度は異なりますし、各国や地域で判断していくことになりますよね。

プロダクト開発も同様に、自社の判断基準を一つ一つ作っていくしかないのかなと。Ubieでは、世間でも重要だと言われている次の3つの設計原則を強く意識して、責任の所在を明確化しています。AIが進化するほど、人間側の責任設計がより重要になると考えます。

1. 説明可能性(Explainability) AIがどのような情報をもとに、なぜその判断に至ったのかを、ユーザーにわかる形で示すこと。これは、ユーザーが安心して意思決定できるようにするために欠かせません。

2. 停止線(Fail-safe) AIの判断が人命や倫理に関わるリスクを含む場合、必ず人間が介入できる設計にすること。「ここから先は人が判断する」——その境界線を事前に設計しておくことが信頼につながります。

3. 責任分担(RACI) 実行者(Responsible)、最終責任者(Accountable)、レビュアー(Consulted)、情報提供先(Informed)というように、誰がどの役割を担うのかを明確に定義しておくこと。複雑な意思決定プロセスでも、迷いや責任の曖昧さをなくすことができます。

医療プロダクトを扱うUbieでは、AI活用における責任設計がより重要になるはずだ

医療プロダクトを扱うUbieでは、AI活用における責任設計がより重要になるはずだ(Ubie提供)

―― 大枠の基準を定めたうえで、一人ひとりのAIリテラシー向上も求められるかもしれません。Ubieさんでは、社内でリテラシーを高めるための教育を実施していますか。

畠山:できるだけ情報を開示することで、一人ひとりが自主的に学べる環境を整えています。例えば、社内のメンバーが、どのツールで、どんなプロンプトを書いているのかは基本的にslackなどで開示されています。私自身も日々メンバーのプロンプトを目にして気づきを得ていて、こうした環境が組織全体のリテラシー向上につながっていると感じます。

―― 最後に、生成AIの活用における展望や現在取り組んでいることを教えてください。

木浦:「リサーチ」と「プロトタイピング」の距離をいかに縮めるか、という観点で取り組みを進めていきたいですね。結局、リサーチを通じてユーザーニーズが判明しても、プロトタイプを作って確かめなければ、仮説が正しいかどうかは分かりません。絵に描いた餅のようになってしまいます。

モノづくりの理想的なカタチは、「リサーチ」と「プロトタイピング」を同時に、かつ小さく回すことだと私は考えていて、その手段としてAI活用がカギになるのではと期待しています。

畠山:当社では、AIを有効活用することで、いかに「学習量」を増やしていくかにトライしています。現状は、リリースしなければユーザーのフィードバックを得ることができませんが、リリース前に質の高いフィードバックが得られるようになれば、学習量が大幅に増加し、結果的により価値の高いプロダクトを提供できます。そうしたプロセスをどうしたら作っていけるか。まさに常識をくつがえすような発想が求められると思います。

インタビュー
執筆小林 香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ転身。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より拠点を東京に戻し、国内トレンドや北欧・欧州のイノベーションなどをテーマに執筆している。一般社団法人 日本デジタルライターズ協会会員。

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